「監督と作品の運命的な巡り合わせ」サイコ(1960) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
監督と作品の運命的な巡り合わせ
不倫相手との新生活を夢見て会社の金を持ち逃げしたOL、マリオン。彼の住む町に向かう道すがら、さびれたモーテルに泊まり、そこで何者かに殺される。その驚愕の犯人とは…!?
アルフレッド・ヒッチコックの1960年の作品。
ヒッチコックの最高峰として知られ、サスペンスやホラーに“サイコ”というジャンルをも築いた記念碑的傑作。
前半は会社の金を持ち逃げして不安定な精神状態のヒロインの動向を描き、不穏な雰囲気を醸し出す。ヒロインを凝視する警官の視線は不気味。
中盤、ヒロインは何の前触れも無く呆気なく殺され、ピンと張り詰めた緊張感のまま驚愕のラストへ。
シャワールームの殺人シーンはヒッチコックの手腕が冴え渡った名シーン。
たかだか1分ほどのシーンに、たたみかけるカット、カット、カットの連続。見る側に息つく隙を与えない。
シャワールームなので勿論ヒロインは裸。しかも刺し殺される。当時の厳しい映倫が黙っている筈がない。
そこでヒッチコックは、振り下ろされるナイフ、絶叫するヒロインの表情アップ、流れる血の連続カットで、直接的な際どい描写を避けて、シャワールームで殺されるというシーンを見事演出している。
バーナード・ハーマンの音楽もより効果を上げている。
(詳しくは映画「ヒッチコック」を)
驚愕のラストは今見ても衝撃的。
ノーマン役アンソニー・パーキンスの怪演も忘れられない。
それにしても、彼にとってこの映画に出演したのは、自らの俳優人生において幸だったのか不幸だったのか。
時々、この作品はこの監督が撮るべくして撮った、と思う事がある。黒澤の「七人の侍」、コッポラの「ゴッドファーザー」、ルーカスの「スター・ウォーズ」、スピルバーグの「E.T.」などなど。無論、ヒッチコックはこの「サイコ」。
たまたまオファーがあっただけかもしれない。単なる偶然かもしれない。しかしそこに、運命的な巡り合わせを感じずにはいられない。