国民の創生

解説

グリフィスの出世作である。1915年発売の本映画は、常時の斯界にあって正にエポック・メイキングの作品であった。トーマス・ディクソン原著の「ザ・クランスマン」に基づいたもので、南北戦争時代を背景とし、奴隷解放問題を主題として人道愛を高唱している。主役俳優にはヘンリー・B・ウォルソール、ミリアム・クーパー、メイ・マーシュ、故ロバート・ハーロン、故ウォーレス・リード、リリアン・ギッシュ等を始め、今は監督で鳴らしているジョセフ・ヘナベリー、エルマー・クリフトン、ドナルド・クリスプ等も端役を受け持っている。

1915年製作/アメリカ
原題または英題:The Birth of a Nation

ストーリー

ペンシルヴァニア州のストーンマン家の息子フィルとトッドとは南キャロライナ州のキャメロン家へ学友を訪ねて滞在するうちフィルはその家の娘マーガレットと恋仲となる。マーガレットの兄ベンはストーンマン家の末娘エルシーとはまだ見ぬ仲ながらその優しい姿を懐かしんでいた。南北戦争が開かれて親しかった両家は南北両軍に分かれて戦場に相見ゆる事になったが北軍は優勢で南部連邦は散々敗軍の苦を嘗めキャメロン家の息子2人は戦死し、ベンは傷ついて捕虜となった。彼を看護したエルシーと、ベンの母とは大統領リンカーンを訪れて、ベンの助命を嘆願した。かくして傷癒えたベンは久しぶりに故郷へ帰った。エルシーの父なるオースティン・ストーンマンは下院議員中の錚々たるもので、主義として奴隷解放を主張して大統領の南部諸州に対する態度を生温しとして憤慨していたがリンカーンが暗殺されて後はますます勢力を得て、自ら南部へ出張し、今まで奴隷の境遇にあった黒人どもを解放し、自らの勢力を扶植し始めた。ために黒人は今までの厭迫から逃れて白人に対してあらゆる無礼を働き出した。白人は勢自衛を計る必要を認めた。ク・クラックス・クランという白衣覆面の騎馬武者が夜暗に乗じて悪事を働いた黒人に制裁を与え始めた。ベン・キャメロンはその首領に挙げられていた。彼の妹フローラは黒人ガスに追われて谷間へ墜ちて死を遂げたが、ガスはクランによって制裁を与えられた。かくして黒人対クランの争闘は日を追って激しくなった。ストーンマンも自分の娘を黒人の血をうけたリンチに与えるだけの無謀はできなかった。激しい争闘の嵐が過ぎて、ベンとエルシー、フィルとマーガレットの2組の結婚が嬉しく華やかに行われた。

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映画レビュー

4.5比類なき完成度。その悪質なテーマから正当な評価が得られなかった超大作。

Kさん
2022年3月15日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

グリフィスは映画の父として知られ、カットバック、ロングショットといった様々な手法を生み出し、カメラの可能性を提示した。(ジョルジュ・サドゥールによると)本作は1544ショットで構成されており、その多くが歴史的価値をもっている。

クローズアップの発明者については、しばしば議論のテーマとなっているが、ドラマを盛り上げる道具として自分のものにしたという点では、間違いなく彼が第一人者であろう。本作でも多用されており、その効果は抜群だ。

南北戦争によって引き裂かれた2つの家を軸に物語が展開され、リンカーンの暗殺、KKKの結成といった史実の中に白人を襲う凶暴な黒人という偏見に満ちたキャラクターを登場させることで、あたかもそれが彼らの本当の姿なのだと我々は錯覚する。
リンカーンの死によって暴徒と化した黒人たちは街を支配し、白人女性と結婚しようとする者まで現れるが、そこへ顔に白い覆面を被った"正義の制裁を下すヒーローたち"がやってきて、彼を殺し、その死体を”悪の根源"である州知事宅の門前に置く。

こうして黒人軍団とKKKとの争いは激化するが、お察しの通りKKKは黒人たちを弾圧する。この激しい戦闘シーンは、
・白人女性を誘拐した州知事宅
・黒人軍団とぶつかり合うKKK
・家を追われ、小屋に逃げ込むが武装した黒人に囲まれる家族の危機
という3つの状況をクロス・カッティングでスピーディーに進行させており、すでに「イントレランス」を予感させるものがある。

ラストシーンでは、めでたく2組の夫婦が誕生し、イエス・キリストも彼らを見守っている…。

原作は牧師のトマス・H・ディクスン作「クランズマン」で、南部主義者一族の子孫だったグリフィスは、ほとんど遺伝的に反黒人論者であった。人種差別は当時当たり前のように浸透しており、今でこそ批判の的だが、(やはり公開が禁止された地域は少なからずあったようだが)南部では検閲でカットされなかったようである。
また、慈善団体などからの批判さえもこの映画の宣伝効果となり、結局無声映画史に残る興行成績を叩き出すこととなった。

無声映画特有の大袈裟な演技(…が、ほとんどの俳優は模範的ではないだろうか)、誇張された幾つかのエピソード、悪質なテーマを含めても、この映画の完成度はすばらしく、認めたくはないが、映画自体がこれ一本で一気に良くも悪くも複雑化したのだ。
この「國民の創生」を否定することは、グリフィスを否定することであり、ほとんど"映画"自体を否定することになる。人種差別はこの世から抹殺しなくてはならないが、グリフィスの名と、彼の功績はいつまでも語り継がれるべきだ。

「國民の創生」は憂鬱で、悪質な作品である。
しかし、その完成度は比類なきもので、ほとんど時代を超越している。傑作と言わざるをえない。

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K

4.5映画の父、グリフィス監督の映画表現法確立の記念碑的大作

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画が見世物としての娯楽性だけではなく、芸術としての表現法を確立した記念碑的アメリカ映画の大作である。上映時間も12巻の165分と、当時の興行常識を打ち破る画期的な作品。但し、内容に関しては問題がある。監督のD・W・グリフィスは、南軍大佐だった父親を持つ影響からか、南部白人社会の一方的な価値観で占められている。それは第一に黒人差別であり、同時に白人至上主義である。アメリカ建国から自由主義社会の謳歌までが、黒人の人たちの犠牲の上に成り立っていると解釈できる。南北戦争で北軍が勝利を収め自由を得ることが出来た黒人の人たちが、再びK・K・K団の制裁によって沈黙していく姿は悲惨極まりなく、その扱いは映画の悪役の枠をはみ出している。白人が善で、黒人が悪の偏った正義感には、どうしても嫌悪感が生まれてしまう。唯一の教訓は、20世紀初頭のアメリカの人種差別意識が色濃く反映された記録性に想いを寄せることである。

物語はその南北戦争と、k・K・K団と黒人の闘争の二つに大きく分けられて、スペクタクルシーンの連続に圧倒されてしまう。南北戦争のシーンは、これ以上の迫力をスクリーンに描き収めることが不可能と思わせる程に凄い。大砲の立ち上がる煙の大きさ、広大な大地に長く並行する北軍と南軍の機銃戦、逃げる南軍の大群の移動と、スケールの膨大さでは、これ以上のものは無いのではないか。また、白衣を纏ったクラン団が馬に跨り疾走するシーンの不気味さと異様な感覚は、モノクロ映像表現として優れている。数百、いや数千という数になるクランズマンが、白人娘の救助に向かうシーンのサスペンスと、大平原の一軒家で黒人たちに取り囲まれた白人家族を救うシーンのスリルは、特筆すべき映画的演出の模範と言えよう。

映画技法のカットバックやクロスカッティング、そしてクローズアップやフラッシュバックなど、基本となるテクニックを生み出したグリフィス監督が、”映画の父”と称されることが納得の歴史的名作には違いない。この映画に関わった映画人に、ジョン・フォード、エリッヒ・フォン・シュトロハイム、ラオール・ウォルシュ、そしてドナルド・クリスプがいる。なんと豪華なメンバーであろう。無声映画は、この作品を契機に飛躍的に発展し、トーキー映画が誕生するまでの約15年の間に成熟し完成の域に到達していく。内容の問題を抱えても、その表現技法の貢献度の高さ故、高く評価することにやぶさかではない。リリアン・ギッシュの可憐さ、大きな目が美しいミリアム・クーパーの二人の女優も印象に残る。

1976年 10月7日  フィルムセンター

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Gustav

4.5100年以上前に作られたとは思えないクォリティの高い作品。南北戦争...

2017年8月12日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

100年以上前に作られたとは思えないクォリティの高い作品。南北戦争の悲劇、人種問題の根深さ、怖さがリアルに伝わってくる。無声映画だが2時間半があっという間に過ぎてしまった。表情だけで多くの複雑な内なる想いを投げかけてくる。若かりし頃のリリアン・ギッシュが可憐で美しい。DVD視聴だったが淀川長治の解説が含まれていたのも一興だった。

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tsumumiki

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