「呼び起こされた悪と、目覚めた悪」ゴールデンボーイ(1998) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
呼び起こされた悪と、目覚めた悪
スティーヴン・キングの中篇小説を映画化した1998年の作品。
成績優秀、スポーツ万能の高校生トッドは、授業で習ったホロコーストに強い興味を持ち、没頭するように調べ始める。
そんなある日、一枚の古い写真から、近所に住む老人デンカーが元ナチス高官であった事に気付く…。
もし、あなたの身近に、今も身柄を追われている犯罪人が居たら…?
通報するのが普通だろう。
しかし、トッドはそうはしなかった。
デンカーに近付く。そして、
戦争中の行いを根掘り葉掘り聞く。
トッドは優等生なので、あくまで歴史的興味で…ではない。
ナチスの残虐さや人の死などに異様なまでに執着する。
トッドは当初からサディスティックな面があった。
デンカーへの接近や彼が元ナチスある特定や証拠も、犯罪に等しいやり方で。
それを強みに脅迫。
さらには、ナチスのコスプレまでさせ…。
端から見れば、老人虐待。
人類史上最悪の暴虐の話が、少年の心の闇、邪心を刺激する…。
その深みに陥っていったのは、トッドだけではない。
ナチスのコスプレをさせられて、嫌々行進の真似事までやらされるデンカーだったが、ふと、昔に戻ったかのように。そのシーンは、ゾッとするほどの凄み。
これまで優位に立っていたトッドだったが、この辺りから立場が逆転し始めたと思う。
デンカーの話にのめり込む余り、学校の成績が下がってしまったトッド。
カウンセラーとの面談の場が設けられ、その時デンカーが祖父のふりをする。
トッドとのやり取りを事細かに印した日記を金庫に閉まってあるという。
そして、デンカーの家の地下室での惨事…。
お前と私は道連れだ。
トッドは自らの愚かな行いを後悔しただろう。
関わるんじゃなかった。深みにハマるんじゃなかった。
デンカーともう会わないと決め、普通の生活に戻るも…。
そう簡単に関係が断ち切れる筈は無い。
何故なら、トッドが呼び起こしてしまった凶気なのだから。
事態が急変する。
“地下室での惨事”で、デンカーが身体を悪くし、緊急入院する。
その時の隣のベッドの老人が…!
それをきっかけに…。
ホラーの帝王と言われるキングだが、本作は非ホラー。
しかし、人の心の闇、目覚めた/呼び起こされた悪は、時にホラー以上に戦慄。
都合のいい箇所もある。近所に元ナチス高官が住んでいたり、隣のベッドの老人が…だったり。
が、絶対無いとは言い切れない。
恐ろしい運命の巡り合わせ、皮肉な末路を、スリリングに綴る。
アメコミ映画や大ヒット伝説のバンドの伝記映画ですっかり人気ヒットメーカーとなったブライアン・シンガーだが、初期の『ユージュアル・サスペクツ』や本作のような見応えあるサスペンス作の方が実は好き。またこういう上質のサスペンスを撮って欲しい。
イアン・マッケランはさすがの巧演と存在感を発揮するが、ブラッド・レンフロも良かった。
好青年が闇に染まっていく様を見事に演じた。
その演技力と美青年ぶりで将来を期待されていたのに、ハリウッドの若手あるあるのスランプや問題の末、彼が他界してもう10年も経つとは…。
トッドがその後、どういう大人になったか気になる。
ラストで彼のある嘘を問い詰めたカウンセラーを逆に脅迫。
きっと、大人になったトッドは、一見好人物。
が、その心の奥底は…。
目覚めた悪は…。