劇場公開日 2023年6月16日

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「ヒッチコックの真似ではなく、正当な後継、系譜に連なる傑作であると思います」氷の微笑 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ヒッチコックの真似ではなく、正当な後継、系譜に連なる傑作であると思います

2020年11月21日
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鑑賞方法:DVD/BD

1992年公開

1980年 殺しのドレス
1981年 白いドレスの女
1987年 危険な情事
1992年 氷の微笑(本作)

それぞれ監督は違うけれど、ひとかたまりとしてひとつの系譜に連なる映画だと思います
自分自身よく混同してしまいがちです

内容的にも、白いドレスの女と殺しのドレスを組み合わせたように感じます

原題の意味は本能
邦題の氷の微笑は本作のアイスピックと美女の謎を現しており良い邦題とは思いますが、ラストシーンの意味までを説明できていません
原題こそがその意味を説明しているのだと思います

キャサリンが結局全ての殺人の黒幕です
しかし本人は誰も殺してはいません
どの殺人もみんな彼女が他人を操って殺させたのだと思います
自分に精神的に依存する状態を作り上げているのです

そしてもしかしたら、彼女自身も実は今は老女になったヘイゼル・ドブキンスに操られている存在なのかも知れません
キャサリンとヘイゼルは年が違うだけで、キャサリンはヘイゼルの容姿に似せようと努力しているように見えました
まるでキャサリンに似せようとしていたベスのように

ヘイゼルは誠実な夫と3人の子持ちの善良な主婦だったのに、ある日突然家族全員を平然と殺した女なのです
彼女をキャサリンが研究する内に、ヘイゼルに取り込まれてしまったのだと思います
そう全ての黒幕はヘイゼルだったのかも知れません

なぜニックがラストシーンで殺されなかったのでしょうか?
殺しとセックスが極限の本能だとしたらなら、
彼女はもう少しニックとのセックスを楽しみたい
そう考えたのでしょうか?
冒頭で殺された元ロックスターのように飽きるまで楽しもうとしたのでしょうか?
性欲が殺人衝動を上回ったのでしょうか?

いや、皮肉なことに理性が本能を上回ったのだと思います
彼を殺すのは、新しく誰かコントロールする人間を用意してからでいい
殺すプロセスを楽しみたい
そう考えたのだと思います

本作といえば、シャロン・ストーンが警察での足組みのシーン
その時のドレスは白いドレスです
1981年の白いドレスの女でも悪女の勝負服でした

この警察での訊問シーン
もちろん何人もの警察関係者に訊問されているのは彼女です
でも実は訊問されているのは警察の面々です
彼女は自分がコントロールできる人間ばかりであることを確かめていたのです
足組みのシーンはそれです
理性よりも性欲という本能に抗えない人間ばかりであることを確認していたのです
私達観客もまた監督にそうであることを試されていた訳です
まんまと観客も劇中のニック始め警察の面々もそれに引っかかっていたのです

あのシーンは事前調査での予想通りニックをコントロールできると彼女は確信して、次の段階に進もうと決断した瞬間なのだと思います

つまり、あのシーンこそは次の本を書くに足る人物であるのかニックを試す為の彼女の面接試験だったのです

舞台はサンフランシスコ
ヒッチコックの名作中の名作「めまい」と同じ舞台
シャロン・ストーンは、金髪も容貌もその「めまい」の主演女優キム・ノヴァクに似ています
いや似せているというべきでしょう

ヒッチコックへのリスペクトがてんこ盛りです
ヒッチコックの真似ではなく、正当な後継、系譜に連なる傑作であると思います

あき240