劇場公開日 1947年8月30日

「雄大で繊細な正統派西部劇の傑作」荒野の決闘 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0雄大で繊細な正統派西部劇の傑作

2023年1月15日
iPhoneアプリから投稿

普段から映画を見ていれば見ているほど奥行きが感じられる映画だった。少なくとも1年前の私だったら単なるステレオタイプの西部劇としか認識できなかったと思う。

とにかく映像が雄大だ。ジョン・フォードは荒野を駆ける馬群を惜しげもなく脚から写す。というかほとんど脚しか映さない。なぜならそれが馬を一番カッコよく撮る方法だから。やがてカメラは馬群が立てる後方の土煙へと横移動していき、映画が今まさにダイナミックな運動の中にあることを受け手に体感させる。

また彼は繊細さをも併せ持っている。例えば中盤で街の人々が何やら広場のほうを目指して荷物を運ぶ光景がインサートされるが、これは作品に程よい弛緩をもたらすと同時に、その後にアープ保安官とクレメンタインが広場の真ん中に新築された簡易教会の完工パーティーにて淡いランデブーを楽しむシーンの呼び水ともなっている。一挙両得の賢い見せ方だなあと思う。

アープ保安官とクレメンタインの離別シーンについても、淡々としていたのがかえってよかった。西部の乾いた空気には涙に濡れそぼった過度なセンチメンタリズムは似合わない。誰も何も言わずとも、彼ら彼女らが心のうちに抱える寂寞は、ロングショットで映し出された無辺の荒野に点在するサボテンや奇岩たちがじゅうぶんに代弁してくれている。

確か蓮實重彦を初めて読んだとき、物語なんかどうでもいいから映像を見なさいみたいな教説を延々と聞かされてうるせ〜なクソジジイと少年じみた反抗心が湧き、それゆえ彼が評価するジョン・フォードにも食指が伸びなかった。しかし映画をとにかく見まくって、おぼろげながらもショットが何なのかを自分なりに掴みかけてきている今、彼の作品がどれだけすごかったのかがだんだんわかってきた気がする。制約が多く記名性も低い娯楽映画の範疇でこんなものがチョロっと撮れてしまうフォードやヒッチコックはやはり巨匠と言われるだけある。

そういうわけで久々に蓮實重彦の著作をパラパラとめくってみたが、清水宏を見てない奴は日本映画を語る資格がないとかコッポラは大したことない凡人とか相も変わらずうるせえクソジジイという感じで、ここまで「うるせえクソジジイ」を貫徹できる性根には少しだけ畏敬の念を抱…くわけねーだろクソジジイ!はよ映画撮れ!

因果