劇場公開日 2025年7月19日

光年のかなたのレビュー・感想・評価

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5.0荒涼とした地に足をつけて生きろ

2025年7月24日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:その他

「しかし「白い町で」は何といっても、実存主義の俤を宿しているのが特徴である。サルトルの『嘔吐』を思い出したといえば、失笑を買うだろうが、船乗りならぬ船乗り(自ら船乗りでないと主張しているという意味で)ポールの、自己の存在理由を求めての生き方、生への模索……など、いまや時代遅れといわれそうな実存主義のテーマなのである。そういえば、例えば同じタネールの「光年のかなた」(1980)にも、この種の俤は感じられたものだ」(黛哲郎「実存主義の甘き香り」『キネマ旬報 1986年2月上旬号』)

さて、公開当時でさえ、時代遅れの実存主義をテーマに扱った本作を、2025年現在にみることは、登場人物の風変りな老人ヨシュカも仰天に違いない。だが、「新スイス派映画の父」であるアラン・タネールの作品を再発見できたことはとても嬉しい。
ゴダールやトリュフォーなどヌーヴェル・ヴァーグの映画作家と時代を共にしーゴダールが亡くなった2日前に偶然にも逝去されたー、1980年代は日本で熱心に取り上げられるも、スイスの映画監督ダニエル・シュミットやフレディ・ミューラーの陰に隠れてしまったアラン・タネール。しかし彼がいなければ、「グループ5」は結成されず、スイスで映画がつくられることはなかっただろうし、本当に偉大な人物だ。

なんといってもアイルランドの風景がとてもいい!
全く観光に行きたいと思わない荒涼とした土地―でも美しいが―。それなら青年ジョナスが、未来のことなど考えず、たらたら生きていることも頷けるし、ヨシュカの「夢」もよく分かる。

以下、ネタバレを含みます。

ジョナスとヨシュカの奇妙な交流もとてもいい。ヨシュカはジョナスを見込みがあると声をかけるも、いざジョナスが家にやってくると邪険に扱う。客がこないガソリンスタンドの立ち仕事を任せたり、車などの廃材を整理するよう「試練」を与えるのは、不毛で今では「パワハラ」と言われてしまう気がする。しかしその危うさを抱える魂の交流が、少しずつ彼らに父子関係に近い親密さをもたらしてくれるのだ。

ジョナスはヨシュカに試練を与えられ、少しずつ変わっていく。そして「生への模索」を始め、ヨシュカの「夢」に立ち入ることができる。夢とは人工翼で空を飛び、光年のかなたへ旅立つことである。まさに「自由」の実現だ。

しかし現実は厳しい。ヨシュカの飛び立ちを後ろから捉える素晴らしいショットに見惚れて、つい彼の夢が叶ったと思ってしまう。だが次の日、彼は鷲に目を潰され、地に堕ち死んでしまう。そしてジョナスは彼の死体を目撃することになってしまう。それは残酷であまりにも悲しい結末だ。

世捨て人になって夢を追求することは、もうできないのかもしれない。
だから、空へ飛び立つ自由を夢みて、荒涼とした地に足をつけて生きろ。それを自然との合一とするのは、違うかもしれないが、本作の「遺言」を私はそう受け止めたい。

本作の「生への探索」といった語りは時代遅れの古臭いものかもしれない。だが、突飛なファンタジーと厳しい現実の両端を捉えるアラン・タネールの確かな手腕は、今なお色褪せない感動をもたらしてくれるはずだ。

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まぬままおま

4.0鳥になる

2025年7月21日
iPhoneアプリから投稿

鳥のように羽ばたき、宇宙へと旅立つという老人
老人と根無草のような若者の交流を描いている
爺さんが土に埋まってる姿がおかしくて

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