劇場公開日 1985年3月21日

「ときめきをときめきとして結晶のように純化できる強いこころの持ち主には、誰もがなれるわけではありません」恋におちて あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ときめきをときめきとして結晶のように純化できる強いこころの持ち主には、誰もがなれるわけではありません

2019年4月12日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

デビット・リーン監督の名作「逢びき」のリメイクともいえる映画です
鉄道で出会うお互いに家族のある男女の物語です
終盤の踏切を猛スピードで通過する列車は、逢びきでの急行列車の通過のオマージュなのは間違いないでしょう

デ・ニーロ41歳
メリル・ストリープ35歳
二人とも中年の所帯持ちの雰囲気を見事に身に纏っています
特にメリル・ストリープは、まだ若く美しいながらも体のラインは崩れかけており服でそのラインを隠しています
容貌も20代の張りのあるものではなく最後のバランスを保っている、その微妙なところを上手く表現しています
本当に素晴らしい女優であると感嘆するばかりです
イーストウッド監督が「マディソン郡の橋」を撮るに当たって彼女しかいないと決めていたのは当然と思います

W不倫ものと言えば、確かにみもふたもありません
若い時には全く受け入れられなかったこの手の物語がそれなりの歳になると胸に染み入り、人気のジャンルになるのは何故でしょうか
不倫願望?
そうじゃないと思います
中年になってからときめきは、誰しも経験する普通のことだからだと思います
とはいっても誰しも家庭を大事に愛しているのです
本作の冒頭での二人のように

そしてそのときめきは、それだけで育つことはなく消えていくのです
希に大きく育ちかけるものもあるかもしれません
けれどもほとんどは踏みとどまり消えていきます
だからこそ、その消え去る時の痛みが多くの人にわかるものであるから胸に染み透るのだと思います

何が一体どうなったら、このような物語になってしまうのでしょう

冒頭のカイテル演じる友人との会食に注文を取りにきたウェイトレスは良く見るとメリル・ストリープに似ています
若干若いかも知れません
スタイルも良いです
なのにフランクは全く目にも入っていませんでした
それなのに二度目に電車の中で見かけたモリーには急激に引き寄せられてしまうのです

人と人との縁、不思議な偶然
確かにそうでしょう
しかしモリーは、今度は金曜日に来ると言わなくとも良いのに口走ってしまうのです
その一言で全てが走り始めたのです
モリーもその一言がこうなるとは思いもしなかったはずです

そこには水面下の男女の引力の相互作用としか言い様のないなにかかあって、水面下で互いの心が確かに触れ合ったという感触があるのです
それはとても甘美で抗うことができなるなるほどのものなのです

駅で待つ自分を自分で下らないことしているとボヤきながら、そわそわと待つ姿のときめき
彼を見つけた時のモリーの目の輝き
忘れかけていた気持ちの高まり
それはかって経験した甘い思い出を再現させようと麻薬のように理性を失わせてしまうのです
その過程を丁寧に素晴らしい演技で表現しています

ラスト近く一年ぶりにあうカイテル演じる友人が話す内容は、一年後のフランクとモリーのことになるかも知れません
だって一年前彼が話した内容は二人の今の境遇なのでしたから

ハッピーエンド?
そうではないのかも知れません
思い出だけにした方がよかったのかもしれません
しかしフランクの妻は何も無かった方が悪いと断じていました

花火のように燃え上がったものは、花火のように爆発さて終わらせるべきだったのかもしれません
けれども、それは父の臨終のとき一体自分は何をしていたのかと一生立ち直れない程のダメージを彼女に与えたかもしれません

本当の愛はいくら箱に押し込めても出口を求めてものすごい力でこじ開けようと隙をうががっているからです
それもいつまでも色褪せずに

いずれにせよ二人の家庭は壊れてしまったのです
けれども家庭だけを形だけ維持してくいような牢獄を一生続けることも悲惨です

ときめきをときめきとして結晶のように純化できる強いこころの持ち主には、誰もがなれるわけではありません
だから泣いてしまうのです

最後に音楽も素晴らしかったです
登場人物の心の動きを見事に表現しています
当時、最高に人気のあったデイブグルーシンの絶頂期の傑出した仕事のひとつと思います
音楽としてもクオリティが高いです

あき240