「「復讐の決意」にすがる男。」ケープ・フィアー Garuさんの映画レビュー(感想・評価)
「復讐の決意」にすがる男。
よくもまぁ、こんな人物を創り出したものだと、感心を通り越して呆れてしまうほど。 アメリカの刑務所の環境がどれほど非人間的なのかは実感として想像できないので、デニーロ演じるサイコ男の信じがたいほどの復讐心を慮ることは難しい。 が、それにしても何なのであろうか、自分を担当した弁護士に対するこの凄まじい恨み方は…。
地獄で自分を失いかけた男が、「復讐の決意」にすがったということらしい。 しかし、この決意は比類が無いほど強力で、文盲の男を博学の法律家へと蘇らせ、善悪の観念など軽々とまたいで過去の復讐へと突き動かしていく。
げに恐ろしきは、男の執念。 この狂気の男が、祈祷のようなうわ言を呟きながら川に沈んでいくラストシーンは、脳裏に焼き付いて離れないほどに強烈なインパクトを放つ。 物語全体に息づくリアル感もまた凄まじく、観始めたら最後まで憑りつかれたように見入ってしまう作品だ。
デニーロの鬼気迫る演技だけでなく、出演俳優が全員素晴らしい。
それぞれの才能を最高レベルまで引き出したスコセッシ監督の演出力はさすがの一言。 これで名を挙げたというウェズリー・ストリックの脚本の出来の良さも、作品の完成度を底上げしている。 世間の評価以上にスゴイ作品で、誰にでもお勧めできる傑作だと思っている。
ちなみに、外国人と日本人では、時間を捉える感覚が根本的に違うと、昔、言語学の本で読んだことがある。 だから、過去や未来の表現の仕方が違うし、欧米人は日本人よりもずっと過去に対する記憶が鮮明で、執着やこだわりも強いらしい。
現実社会では、個人でここまで過去に執着する異常な人間はそうそう現れないだろうが・・・
いや、かの国の老皇帝はすでに、過去に執着するあまり、理不尽な「復讐の決意」を実行に移してしまっているではないか。
これ以上、酷い悪夢にならないことを祈るしかない。