クリーン、シェーブンのレビュー・感想・評価
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予想だにしないラスト
前評判通り、画と音で観る側の想像を掻き立て、作り手の繊細さ(≒神経質)が伝わってくる。特に食事のシーンでの潰されたトマトや必要以上に塗られるマスタードは、ピーターの心情や母親との重苦しい関係が語らずとも伝わってくる印象的なカット。画面に所々映る線やノイズ等の演出は、今後映像作品を観る上で鑑賞のポイントとして参考になりそう。全編が奇怪なだけあり、予想だにしなかったラストシーンには静かに胸を打たれました。
そもそもピーターが犯人だったのかという疑問は鑑賞後にじわじわと湧いてきたのですが、これが監督のメッセージだったのですね。
愛が必要な映画だった。
これは愛情飢餓感の映画だなと思った。
抑圧の中育った母親に歪んだ愛情で育てられた主人公の男は「幸せ」に脅迫的な執着をみせている。これは私の予測でしかないが母親は子供よりも旦那をとる女で、子供に無関心。ピーターの頭で響く男の声は彼の中で作られた幻の父親のようなものだと思う。絶対的な存在で彼を支配して迫ってくる。統失患者にありがちな見張られている感覚や被害妄想が体内に送信機受信機を埋め込まれたという想定を生み出している。これは幸せでない状態を受け入れるため、なれない理由である障害を自ら創り出しているからだと思う。そんな中でも彼の妻との出会いや娘の存在は命綱のようなものだったのではないから。妻の死因は語られていないが、きっと自殺なんじゃないかと思った。この世界では多少、図太く強引な方が上手く立ち回るもので、捜査中の刑事も、あの子には父親が必要だ〜とか綺麗事をぬかしながら味方になることをだしにして初対面のシングルマザーと肉体関係を持ち、暴漢には屈して野放しにして、精神病患者を犯罪者と決め込み憎んで追い回して殺す。正常と異常とは?
トラウマから来る弱さと優しさが生きづらさを産むこの世の絶望的な一面が、映画全体の抑圧的なトーンと合わさってやるせなくて涙が出た。
死ぬ事が救いの世界なんて嫌だ。
色々な事に対応をせざる負えない娘の顔が終始不機嫌そうなのが世の中への反抗のようで共感と応援したい気持ちになった。いつか笑える日が来るんだろうか。
何か一歩違えば幸せな結末も迎えられたはず。自分次第と悟った男に母親が笑顔のひとつでも見せたら変わったのかもしれない、死んでから悲しんでも遅いのに。
コロナや不景気で絶望臭漂う今
悲劇を産まないために肯定や優しさの重要性どんどん高まってるなと思う
SO NOISY
幻聴と強迫観念に囚われる統合失調症の男の話。
嫁を亡くし壊れて行く中で、娘を養子に出された男。
幻聴に襲われてキレたり、頭を抱えて打ちつけたり、頭に何かを埋め込まれている気がして挟みで頭皮を切ったり…剃毛はヘタなだけみたいだけど…。
そんな中で起こる殺人事件の容疑者としてマークされる主人公。そして彼が近付く女の子。
まあ、サスペンスとしてつまらなくはないけれど、ミスリードっぽいなと感じてしまいちょっ
ともの足りず。ラストの展開は嫌いじゃないけど、銃を向けたとはいえ刑事の方の余韻が温く物足りなかった。
不穏に満ちたロードムービー??
ラジオの電波からの不穏なノイズ、屈強な黒人男性を想起させる罵声はピーターが収容されていたであろう精神病棟?でのトラウマか?
幼女の惨殺された死体、ピーターに目をつけた刑事、物語の序盤に車を盗み、おそらくは持ち主である女性が襲われる場面は描写されず、少女を殺した確信が確証にはならず危ういギリギリの線を踏み外す互いに!?
娘を探し出す明確な物語がありながら、奥さんが死んだ理由や母親の素っ気ない態度、養子に出された娘と新しい母親の関係、娘が父親に対する思い、何よりもピーターの現状の理由は周りの人間から想像するしかない。
目を覆いたくなる場面よりも主人公であるピーター自身の姿や行動全てに恐ろしさを感じてしまう。
刺のように確実に刺さります。中々抜けません。
25年振りのリバイバル上映だが、古くささは全く感じなかった。
イタいだけのキワ物ホラーかと危惧していたが、とんでもない。
何とも切なく哀しい佳作。
映画ラスト近くの洗濯物大量干しシーンには、自然と涙が流れて私のマスクに染み込んだ。
ノイジィーな音響、冷徹な撮影、全員コミュ障の登場人物…
混沌の極みの様な現代だからこそ、今、観るべき映画だと思う。
主演のピーター・グリーンの演技力の確かさには驚いた。文字通りクレージーな荒唐無稽な設定を、リアルな物語に変えてしまったのは、絶対的に彼の演技の賜物。
良い?映画
統合失調症を患っている男が主人公の物語。
物語は、男が病院?療養所?…まるで刑務所か収容所のような施設を退所する場面から始まる。
退所?しても、なお幻聴や妄想に悩まされており、症状が収まってもいなければ、治療のための投薬を受けている様子もない…つまり、彼にとって十分生きづらくなってしまった社会へと再び、そのまま放り出されてしまうのだ。
症状に悩まされる彼が、自分自身の気持ちを安定させようとするその行動は、周囲には異様かつ過剰に映ってしまう…繰り返される痛々しい"自傷行為"には、その疾患ゆえの彼なりの理由があることがわかる…その描写はかなりホラーチックですが。
彼は、養子に出され生き別れ状態になっている実の娘に会いに行こうとしますが、時同じくして少女殺害事件を追う刑事のストーリーとリンクして、物語は進行・展開していきます…。
正直、サスペンスやスリラーとしては、それほど面白くはない、またラスト・シーンも特に衝撃的でも何でもない(笑)
犯人探し的な目で鑑賞すると、たぶん面白くとも何ともない(笑)…でも、演出はそういうところも狙っているような気がせんでもなかった…笑(英語版ウィキペディアには、ちょっと詳しいプロットの説明があり「あぁ、なるほど」とはなりましたが、映画では分かりにくかったですね笑)。
個人的には、主人公"ピーター"を演じたピーター・グリーンの狂気な演技ぶりと、それを上手く捉えた監督の手腕に発見のある作品でした。
*なんか統合失調症患者=犯罪者予備軍的な表現もあるため、ちょっとそこんところ、気になりました…。コンプライアンスの厳しい時代、地上波にのることは多分無いでしょう…笑
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