「ニール・サイモンの脚本が生かされた、オフ・ブロードウェイの楽しいコメディ映画」グッバイガール Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
ニール・サイモンの脚本が生かされた、オフ・ブロードウェイの楽しいコメディ映画
久し振りに楽しいアメリカ映画を満喫した。軽快明瞭なるお話の展開と、登場人物のユニークな個性が、単純ではあるが明るく健康的に描かれていて実に好感が持てる。これは、主演のリチャード・ドレイファスとマーシャ・メイスンの役柄を考えて脚本を仕上げたニール・サイモンの手腕が大きい。また、「愛と喝采の日々」で堅実な展開を見せたハーバート・ロス監督のリラックスした演出タッチもいい。その為に、ドレイファスの演技は、真面目ながらツキが無い俳優エリオットの哀切たる心情を笑いで吹き飛ばす。これは、彼にとって最良の演技になるであろう。マーシャ・メイスンも、愛人に結局は棄てられる不運な女性ポーラを深刻ぶらず、あっさり演じ切っている。彼女の最高作「シンデレラ・リバティー」の酒場の女のリアリティーには及ばないものの、技量に裏打ちされた安定の演技力を見せてくれる。そこに娘ルーシーの存在が異色で、アメリカ社会における子供の在り方が加えられ、単に大人の男と女の関係で終わらないドラマになっているのが良かった。それが上手く描かれている場面が、二人の大人の関係を知って気がふさぐルーシーを学校まで迎えに行くシーン。唐突ながらクラシックな馬車に乗せるアイデアが面白い。このサプライズによりエリオットが家族の一員に認められる切っ掛けになる。個人主義のアメリカ社会にみる、ひとりの人間として子供も扱うところが良く表現されていると思う。
お話は、舞台劇にもなるストーリーと展開。エリオットとポーラが最初に出会うところと、二人が結ばれるところ、そして再び愛を確かめ合うところで、丁度雷が鳴って雨が降る。音と情景の変化を二人の心理と対比させる演劇的な演出が施されていた。
それにしても、ドレイファスがゲイのリチャード3世を演じるオフ・ブロードウェイの舞台裏はケッサクだった。偏執的でマザコンの演出家の解釈が笑わせる。続くエリオットがポーラの前で映画出演を断る芝居のリアクションがまた巧い。脚本家と演出家と俳優が噛み合った名人芸である。
兎に角楽しい映画だった。劇中でエリオットはポーラに、どうせ映画に出るんだったらアカデミー賞を取ってねとエールを送られるが、そう言われてドレイファスがこの作品で本当に受賞したのは、これが初めてかも知れない。上手く決着が付いたハッピーエンドのロマンティックコメディのアメリカ映画。
1978年 11月23日 丸の内ピカデリー