「素晴らしい演出テクニックも、話の骨子が…」救命艇 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしい演出テクニックも、話の骨子が…
沈みゆく煙突だけて大型船であることを、
浮遊物から客船であることを、
悟らせる見事な冒頭のシーンから始まった。
この映画ではこの冒頭のみならず、
手術の場面や敵艦長の殺害シーンも含め、
あえて描かない上手さ等、
狭いボートの中だけの限られた場面設定での
ヒッチコックの演出力をまじまじと
感じさせる作品だった。
狭い空間でのほとんど動きの取れない
場面設定は、舞台劇としても難しく、
せいぜい小劇場での舞台劇として
ようやく成り立つような心理劇を
ヒッチコックは見事に料理している。
しかし、話の方は、
あちらもこちらもと盛り沢山過ぎて、
ポイントが散漫してしまった印象だ。
新進気鋭の女性ジャーナリストが次々と
商売道具を失い仕事よりも
恋心に転ずる皮肉も、
捕虜のはずだった敵艦長を救命艇の船長化
して裏切られる皮肉も、
その敵艦長が嵐から助けた皆に殺される
皮肉も、
敵艦長が手術でせっかく助けた患者を
殺す皮肉も、
自らが撃沈させられたのと同様に
繰り返される相手国船の撃沈を
目撃するという皮肉も、
等々たくさんの皮肉要素から明らかに
反戦映画的でもあるが、
かと言ってドイツ兵の扱いを見ると
そうでも無い戦意高揚的にも見え、
更に、各人のエピソードが満載過ぎて
話の骨子を絞り込めていないイメージだ。
最後にまたドイツ兵を引き揚げてしまった。
さぁどうする、
また皮肉に終わらせてしまうか、
学習成果の見せどころだが。
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