劇場公開日 2023年12月23日

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「こんな映画が90年前にできていたなんて。」吸血鬼(1932) 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0こんな映画が90年前にできていたなんて。

2024年1月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1932年。カール・テオドア・ドライヤー監督。悪魔研究に没頭するあまり、幻覚と現実の区別がつかなくなった青年が訪れたホテル。そこで手にした謎のメッセージに導かれて訪れた屋敷で、青年は不気味な老婆や医師を目撃する。その屋敷には禍々しい何者かの影が立ち込めていることに気づいた青年は、受け取った書籍を読む解くことで、その正体を暴こうとする、、、という話。
久しぶりに見たがすばらしい作品。トーキーが誕生して間もなくの作品にもかかわらず、映像と音の調和で(音を最小限に絞ることで)恐怖を盛り上げている。これが幻覚、これが現実と律儀に区分けせず、「幻覚と現実の区別がつかなくなった青年」という冒頭の紹介を見事に映像化していて、観る者の現実感覚を揺るがしている。そこかしこに実験的な映像表現が盛り込まれていて、有名な死体の主観や幽体離脱などはこれしかない表現になっている。死体の主観とは、主人公が死者となった自分を見る(たぶん幻覚のなかで)場面のあと、その死者が見る映像がカットバックされて何度も映るという信じがたい映像。映画史上、死者の視線をこれほどなまなましく、生きている者のリアリティで描いた作品はないのではないか。
後半では、古い伝承に従って吸血鬼を退治し、吸血鬼に協力していた医師は機械の力で成敗するのだが、端正なアクション映画のようにきびきびとした展開で気持ちいい。こんな作品が1930年代に生まれていたことを考えると、映画は衰退しているということを信じたくなる気持ちを抑えるのが難しい。しかし、いい映画に触れて人生が明るくなったのは間違いないので、ありがたい限り。ドライヤー特集2度目のイメージフォーラムさん、いい仕事しています。

文字読み