「パゾリーニふたたび」奇跡の丘 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
パゾリーニふたたび
1964年製作、監督はピエル・パオロ・パゾリーニ。
聖書「マタイ伝」のテキストをそのままセリフに使い、キリストの誕生〜磔刑〜復活を描いた本作。
聖書の物語を、超絶にリアリスティックな映像で撮っている。大袈裟な描写は一切なし。オールロケ・長回し・手持ちカメラの多用はドキュメンタリーを見ているようだ。
全く同じネタの『ゴルゴダの丘』(1935年ジュリアン・デュビビエ監督)が、当時の映像技術を駆使し、迫力ある群衆シーンや、キリストを取り巻く人々(ジャン・ギャバンがピラト役)の葛藤を入れ、壮大な物語に仕上げたのに対し、何とも淡々とした、淡々としすぎる映像。
それでも退屈しないのは、リアリスティックな映像が、自分もその場にいるような臨場感を生んでいるから。群衆の中に入り込んだカメラが、弟子の視点でキリストを捉えるシーンなど、私は鳥肌が立った。
パゾリーニ『ソドムの市』などの苛烈さとは真逆の、静謐な映像。
無神論者のパゾリーニが、何故、キリストの話を、リアリスティックに撮ったのか?
彼の葛藤が、静謐な映像の底に流れているような気がしてならない。
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追記:
現在、2014年度ヴェネツィア映画祭開催中であるが…。
コンペ部門に『パゾリーニ』(1975年に殺害されたパゾリーニの死に迫る伝記映画。監督はA.フェラーラ)が選出されている。その死から何十年たっても、パゾリーニは多くの関心を集めるのだろうか。
以前、A.フェラーラの『マリー もうひとりのマリア』(キリスト映画を撮る監督が登場する現代劇)を観た時に、パゾリーニ、そしてフェラーラ自身を模した話なのではないかと、勝手に思った(かなり乱暴な見立だが…)。
そんなフェラーラがパゾリーニを直接題材にして映画を撮った。日本でいつ公開されるか(公開出来るか)わからんが、『パゾリーニ』観たいなあと思う。
追記2:
新作『パゾリーニ』の主演は、W.デフォー。
デフォーは、『奇跡の丘』と同じ主題を翻案した、スコセッシ版『最後の誘惑』、トリアー版『アンチクライスト』の二本で主演している。ずいぶんと「丘」に見込まれた男だなあと思う。