「本物の勇気」ガンジー よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
本物の勇気
リチャード・アッテンボローの作品が好きだ。大した本数を観たわけではないが、「コーラスライン」「遠い夜明け」とこの作品に共通して描かれているのは、ごく普通の人間による人生や世界への静かな抵抗である。そして、そこから観客は、本物の勇気がどのようなものかについて思いを巡らせることになる。
ガンジーは結果として「インド独立の父」と称賛される存在になった。映画の中で彼のやっていることは非暴力による植民地支配への抵抗。しかし、それは滞在先の南アフリカでの、人種差別への抗議運動から始まった。この時から、彼が抵抗する相手は国家の枠を超えたものだったのだ。
ガンジーの直接的な抵抗の相手は植民地支配なのだが、その視点だけで彼の運動を見るといろいろな矛盾を感じてしまう。しかし、映画の中の彼の発言、行動からは、彼が戦う相手は宗主国イギリスにとどまらず、世界の抑圧、貧困、侮辱だということが分かってくる。
そして、その戦いは仲間からの理解を得ることが難しく、ときに信頼を失い、彼らの離反を招くこともある。そのことに対して、ガンジーは粘り強く、誠実な言葉と勇気ある行動で周囲を説得するのだ。
権力獲得のゲームという意味での政治とは、身近な仲間の利害を尊重することから始まる。ガンジーはそうした政治とは一線を引き、その外側から人々を動かそうをした。
このことがどれほどの勇気を必要とするかを映画は語る。
インドの農村のように、ガンジー自身は物静かな人間だ。しかし、カメラがとらえたその美しい風景のように、単純で粘り強く生きていく人間をベン・キングスレー体現している。名演である。
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