「純粋で繊細な狡くて悪い男の横恋慕」華麗なるギャツビー(1974) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
純粋で繊細な狡くて悪い男の横恋慕
総合75点 ( ストーリー:80点|キャスト:75点|演出:70点|ビジュアル:70点|音楽:60点 )
村上春樹が絶賛していたので、本人が訳をしている原作を昔に読んでみたが、派手な生活の影でいつまでも心の内で一人悶々と悩み続けるギャツビーの姿に特にはまれず。そんな原作の内容もおおかた忘れてしまったところで本作を鑑賞する。
上流階級の人々が暇を持て余して不道徳と享楽に耽る様子を眺めているのは、『甘い生活』を思い起こさせる。その中で段々と謎の隣人の正体に興味が湧いてくる。一体彼は何者なのか、自分が顔を出さないこの派手な宴会は何の意味があるのか。
彼は貧乏で不幸で小心で劣等感だらけで、それを隠すために噓つきで狡くて、それでも純粋無垢で繊細であった。穢れた大人の世界では、彼は浮いていたし馴染むことが出来なかった。経済的には成功を収めても、過去は取り戻せないし無垢な心が穢れた現実も受け入れられないし真実を捉えることも出来なかった。不幸で貧乏なころに心に残った輝く思い出のあの人は、いつまでも理想のあの人のままでいて欲しかったのだろう。彼は純粋に狡い浅薄な女を愛し、それなのに女も純粋であって彼を愛し続けていてくれたと一方的に思い込んでいた。
金も学歴も地位もある人々との社会格差を、違法行為に手を染めて成金になって学歴詐称をしても猶完全には埋めることが出来ず、それでも思いだけは届いていると信じている。その繊細な男が一人で盛り上がり自滅していき、そして使用されるだけ使用されて命まで失う。彼にとって苦労して手にした金や地位は、たった一人の女のためであった。でも上流階級の人々にとっては、その地位が何より大切であった。その様子に哀れみが感じられて、なかなかに面白かった。
原作を読んだときにはそうでもなかったのだが、人物と映像が視覚的に入ってくると簡単にギャツビーの人物像が理解できた。いずれ原作を読み直してもいいかと思った。