「社会派ヒューマンドラマの名作」悲しみは空の彼方に odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
社会派ヒューマンドラマの名作
足の踏み場もないくらい混雑したコニーアイランドのビーチで迷子になった娘を必死に探すローラとそれを助けるカメラマンのスティーブ、娘は黒人のアニー母娘と一緒でした。二組のシングルマザーと青年の奇妙な絆を11年にわたって描く社会派ヒューマンドラマ。
この時代、女性が自力で生きてゆくことは難しいでしょうし、人種差別も酷かったことでしょう、そんなセンセーショナルなテーマに正面から臨んだのが原作者のファニー・ハーストさん。原作ではお菓子づくりで成功しますが映画では俳優とメイドと分かり易い設定に変えています。
メイドと言っても卑屈な主従関係ではなく、同じ年頃の娘を抱える母同志として助け合う関係です。それでもアニーの方が一歩引いた存在に徹しているので白人の観客に受け入れやすい配慮というのは察しられます。にもかかわらず南部の公開ではボイコットが起きたようです。
人種が絡まなくとも年頃の娘を育てるのは至難の技、世の中は危うい誘惑に満ちているのですから、なかなか親の真心や信念だけでは立ち行きません。幸い映画ではそれほど酷いシーンには至っていないので助かりました。
枕営業をほのめかすプロデューサーに毅然としてはねつけるローラも立派、ただ、あの状況では仕事をとる母親というのがリアルでしょうから、裏の現実が頭をよぎります。
あえて一線を越えないことで描かなかった深刻な現実を喚起させる手法は巨匠ならではの手腕にも思えます。
一番辛かったのはアニーでしょう、望まぬ妊娠だったのかも知れませんが白人の子を宿したことで娘にも反発され、唯一願いの叶ったのはお葬式、娘のサラが棺に謝罪する脚色は胸をうちます。
映画から半世紀以上たった今でも状況が好転したとは言い難い現実に人の業の深さを感じますが、問題に真摯に向き合うハリウッドの良心は「ドリーム」や「グリーンブック」などの良作に脈々と受け継がれています・・。