劇場公開日 2024年8月2日

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「緩やかな虐殺」風が吹くとき pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0緩やかな虐殺

2024年8月29日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

怖い

以前に観た時はまだ子どもだった。「戦争を知らない子どもたち」である自分には本作も「毎年8月になると(半ば強制的に)読まされ観させられる反核・反戦映画の一つ」という意識だった。
公開がちょうどチェルノブイリの翌年だったのが印象深かったものだ。

80年代と言えば子どもにとっても「冷戦」「第三次世界大戦」「核戦争」「ノストラダムスの大予言」がセットになって身近な感覚だった。
冷戦の終結には、大予言の恐怖を人類が回避し21世紀が無事にやってくる希望を感じた。

あれから37年。
仕事関係で原水禁の学習会に参加する機会も多く、戦争や国家に対して大人の見識を得た自分にはどう映るのか?
と思い、シアターまで足を運んだ。

あぁ、こんな始まり方だったかなぁ。
昔は情弱な老夫妻だと思ったが、今にして思えば、私の両親もこんなものかもしれない。子どもの頃は自分の親ってもっと頭が良くて知識もあると思っていたのだがなぁ。

「原子爆弾」に対する知識が希薄過ぎると映る人もあろうか?
いやぁ、程度の差こそあれ、人なんてこんなものですよ。
今、「放射能」と「放射性物質」の違いを明快に説明出来る人ってどれくらいいるもんでしょ?
放射線がどうやってDNAを損傷させるのかやDNA修復のメカニズム、修復困難になる条件について、きちんと理解している人はどれくらい?
毒の致死量と違って、放射線の危険は死のロシアンルーレット。
100ミリシーベルトの被曝なら大丈夫などというものではないのだ。

ブロッグス夫妻よりは知識があるとしても所詮は「程度の差」の問題。
五十歩百歩って事だ。
フクシマ原発事故でもCovid-19でも、つくづくそう思った。

政府の公式発表に御用学者が権威を添えれば大多数の人は信じる。
(コロナワクチンしかり)
ジムがシェルター制作や着弾後の参考にしていたパンフレットは1974年から1980年まで英国政府が実際に発行していたものだ。
忠実にパンフレットに従おうとするジムが鑑賞者の目にどう映るか?
この構成には、いい加減な情報を垂れ流す政府に対する、原作者レイモンド・ブリッグズの強い怒りが感じられるのではないだろうか。

鑑賞者には最初から結末がわかっている。
じわじわと緩やかに、命が消えていくまでを見つめねばならない。
緩やかな虐殺だ。
あぁ、この感覚って「火垂るの墓」や「ちぃちゃんのかげおくり」と同じだな、、、と思いながら、ジムとヒルダの1日、1日を辿った。
エンドロールでは、涙が溢れないようにそっと上を向いた。

人の命を奪うことに対して鈍感になってはならない。
昨今、スマホを開くと見たくもないのに「人を殺すことで快感を得る」タイプのゲーム広告が流れてくる。
(ラストウォーだの、銃弾射撃だの)

スイッチ一つで気楽に人の命を奪えるような大人に育ててはならない。
自分の前にいるのは「人間」であり、家族がいて生活があるのだ、と想像出来る人でいなくてはならない。

「冷戦」を乗り越えられたように。
今、世界が直面している核戦争の危機も、必ずや乗り越えられると強く信じる。
私達の強い「意思」が未来を作るのだと信じて家路についた・・・。

pipi
きりんさんのコメント
2024年12月14日

pipiさんこんにちは
「Fukushima50」への僕のレビューは何度も削除されて、ついにこんな有り様になってしまいました。

繰り返し削除された拙レビュー。元タイトルは
「科学と浪花節がメルトダウンしとる」
でした。

大震災の前、
「予備電源ラインの増設は不要」と国会で共産党議員の追及を一蹴した安倍総理と、
津波対策は不要だと決定していた現場責任者吉田所長を批判したら
繰り返し削除されてしまいました。
あの日、仙台に住む叔父夫婦を救出に行き、西日本に非難させたので僕も必死だったのです。
削除ばかりか自分のレビューへの追記としてコメント欄に書き込もうとしても はねられます。
いやはや・・
フクシマは美談なんかじゃありません。

きりん
momokichiさんのコメント
2024年9月30日

素晴らしいレビューに感服いたしました。

>ジムがシェルター制作や着弾後の参考にしていたパンフレットは1974年から1980年まで英国政府が実際に発行していたものだ。

てっきりギャグや誇張かと思っていました。まさか本当にこんなバカみたいな内容のものが政府から配布されていたとは。

>昔は情弱な老夫妻だと思ったが、今にして思えば、私の両親もこんなものかもしれない。

うなづきまくりです。

>じわじわと緩やかに、命が消えていくまでを見つめねばならない。
緩やかな虐殺だ。

仲が良くて幸せに過ごしてきた二人が、なぜあんな真綿で首を絞めるような最後を迎えないといけないのか。絶対、こんなのダメだ。
こんな状況にならぬよう、しっかり「意思」をもつようにします。

momokichi
NOBUさんのコメント
2024年9月29日

おはようございます。
 お気遣い頂き、ありがとうございます。
 酒は、ほぼ断っており(週末だけ、ちょびっと飲む。)、当たり前ですが体調はとても良いですね。
 それにしても、今作のpipiさんのレビューは、流石読み応えがありますね。
 ”ジムがシェルター制作や着弾後の参考にしていたパンフレットは1974年から1980年まで英国政府が実際に発行していたものだ。”を初め知らない事ばかりで、とても勉強になりました。
 私などは、今作のフライヤーを伏見ミリオン座で貰った時には、新作だと思っていた程度ですから。
 体調にご留意頂きながら、たまーにでも、pipiさんの知的なレビューを拝読させて頂きたいモノですよ。ではでは。

NOBU
Mr.C.B.2さんのコメント
2024年9月29日

私も37年前に鑑賞しました。今観たら、また違う事を感じるかもしれません。

Mr.C.B.2
NOBUさんのコメント
2024年8月30日

今晩は。
 大変ご無沙汰しております。
 お元気そうで何よりです。昨日は、台風対応でバタバタしておりコメントを差し控えました。私は、頑丈が取り得でしたが今春長年の酒の飲み過ぎにより、伊集院静氏もビックリの肝機能の数字が叩き出され緊急入院をし、それから三カ月禁酒したら血液の全数値が規制値内に戻り”どうだ!”と言いつつ自分がアル中でなかった事にホッとしています。酒は魔物です。
 今作は、今夏再公開される際にフライヤーを手にし(存在すら知らなかった。)、観賞して可なり驚いた作品でした。
 人の無知の怖さをほのぼのとしたアニメで表現していたところかな。台風にお互いに気を付けましょう。では。返信はいいですよ。

NOBU
humさんのコメント
2024年8月29日

「意志」が未来を作る
私もそう信じています😌
平和を未來につないでいかなければ…と思います。

hum
りあのさんのコメント
2024年8月29日

なるほど。
そうなんですね。
ミャンマーを今だにビルマと言ってるアメリカの人たちみたいなものかも、ですね。
ありがとうございました。

りあの
Mさんのコメント
2024年8月29日

私も、私たちと「ジムとヒルダ」は何が違うのだろうと考えさせられました。

M