劇場公開日 2024年8月2日

「核被害を描いた名作だが、意外に実験的な描写も含んでいる一作」風が吹くとき yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0核被害を描いた名作だが、意外に実験的な描写も含んでいる一作

2024年8月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

核戦争の惨禍を描いた作品として確実に筆頭に上がる本作。絵本のような優しい筆致でありながら核戦争の恐ろしさを描いている作品、と認識していましたが、時折実写の映像を差しはさむなど、ちょっと前衛的、というか実験的な描写も盛り込んでいた点は意外でした。最初「入る映画館間違えたかも……」と思ってしまったほどに。

イギリスの農村に住む老夫婦が、核戦争後の放射能汚染によって徐々に身体を病んでいく、という過程を克明に描いていて、状況の凄惨さとほのぼのとした絵柄の落差がむしろ強烈な印象を与えています。

他方、この絵柄だから観通すことができる、という側面もあって、これが実写なら中座してしまうかも、と思わずにはいられませんでした。

老夫婦が、放射能汚染について無知ゆえに苦しむ、のではなく、第二次世界大戦を生き延びた経験から政府の救助を固く信じ、それが事態への対処を遅らせた(ああなったら何をしても手遅れなような気もするが…)、という描写も、冷戦ただなかの当時には強い説得力があっただろうと感じました(森繁久彌の吹き替えは秀逸だけど、あんまりにものんびり、かつ事態に対して見当違いと思えるような認識で話すので、「そんなことしてる場合じゃないんだよぉ!」と肩をつかんで揺さぶりたくなる気持ちになることもしばしば)。

これほどまでに核と放射能の恐ろしさを正面から描き、実写映画としても『ザ・デイ・アフター』(1983)や『テスタメント』(1983)などを作ったのに、その後のハリウッド映画で核爆発を「通常爆弾よりちょっと規模の大きな爆発」程度にしか描けなくなってしまったのはなぜなんでしょう……。

yui