オール・ザット・ジャズのレビュー・感想・評価
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人生の走馬灯
ミュージカル好きならマストです
ダンサーを目指そうという人ならもちろんのこと
最高の芸を堪能できるだけでなく、ショービジネス界の大リーグと言うべきブロードウェイの熾烈な裏側を垣間見れるのですから
特典映像のコメンタリーでロイ・シャイダーがこう語っていました
長い年月を経ても色褪せることはない
(中略)
構図も演技も素晴らしく、脚本は緻密極まりない
誠実に作られていて、誰もが楽しめる
(中略)
人間の体の強さと美しさに感動させられるだろう
娯楽性と芸術性の双方を極めた傑作だ
全くそのとおりです
もっともっと激賞しても足らないと思います
タイトルの意味は終盤のベン・ヴェリーンが演じる黒人司会者の台詞から来ています
and he came to belive that work, show business, love, his whole life,
even himself, ALL THAT JAZZ, was bullshit
彼は仕事も愛も人生も、彼自身も
すべてくだらんと思うに至った
これです
all that jazzとは慣用句で、何から何までとか、何もかもとかの意味だそうです
この黒人司会者が死神です
終盤で彼は黒いサングラスをかけて、死のステージへ彼を呼び出すのです
白いドレスの美女にはアンジェリークと言う役名がついています
フランス語で天使のようなという意味です
つまり天国に彼を導く天使です
編集室の窓から見下ろすと、通りの向こう側にはプッシーキャットという何ともそのまんまの名前のストリップ劇場が見えます
主人公のジョーが生まれ育ったのと同じようなところ
下手糞なタップダンスでストリップ劇場のステージにいたのは30年位前のまだ未成年だった彼の姿です
死ぬ間際に人は人生を走馬灯のように振り返るといいます
そう冒頭のオーディションシーンから全てが、それなのです
死ぬ間際にジョーがみた人生の走馬灯です
ストレスと過労と酒とクスリでボロボロです
でも考えてみれば、クスリこそないものの彼に近い生活の人も多いのではないでしょうか?
煌びやかなショービジネスでなくても、終電間際やタクシーで帰宅、それでも朝はまだ暗い内に出動
残業時間は気がつけば毎月軽く100時間を超えている
疲れ過ぎてナチュラルハイになっている
だから酒をがぶ飲みしないと酔えない
そうすると女性につい近づいてしまう
週末は死んだように眠るだけ
その休みだってジョーのように休日出動
かわいい娘と遊ぶ約束は簡単に破られる
だって仕事があるんだ
コロナ禍の前、こんな暮らしをしていた人も多いはず
自分はひと昔前そんな暮らしをしていました
だから身につまされます
要求される仕事のレベルは高く
スケジュールの遅延は許されない
だからといって妥協して、いい加減な仕事をするのは自分が許せない
失敗は莫大な損害につながる
それよりも、ここまでの男だという烙印を押されて花形部門から追放されるのが怖い
そんな強迫観念が常にありました
誰も自分に替わってできる者などいない
自分がここでは一番だからだ
そんなふうに思い上がった自負もあるものだから余計に始末に悪い
でもそんなことはない
ダンサーのようにいくらでも控えはいるのです
出来なければ他の人間に取って替えられるだけのこと
それが怖かったのです
本当はプライドを壊される方が怖かっただけです
だからストレスは、今にも破裂しそうに膨れた風船のようになってしまっているのです
それでもやり抜かないとならない
ジョーのようにハードルを高く上げすぎると、
泣き出してしまった女性ダンサーのように部下がついて来れない
自分の能力がここまでだということを自覚しても、周囲は次どうするのかを期待を込めて、何の疑いのない純真な目で見て待っている
ジョーが新しい振り付けを思い付けずに、ダンサー達のそんな目が恐ろしくて隣室に逃げ出してしまうシーンは余りにもリアル過ぎです
余裕の顔で新しい振り付けが出来たからプレゼンしたいと言ってみせても、トイレで吐くほど追い詰められていたのです
単なる身体の具合の悪化じゃないのです
そんな具合に誰もが共感できる世界なのです
手術成功の後、ジョーが逃げだした病院の地下とおぼしき漏水が溜まった機械室でのシーンは、「雨に歌えば」の名シーンのオマージュでした
そしてバイバイラブの最後には白い霊柩車が登場し、圧巻のフィナーレに突入します
人生で出会った人々、男、女、仕事仲間
愛憎を超えてみんな彼を赦してくれます
そうして彼は死の天使に導かれて旅立って行ったのです
主演のロイ・シャイダーは本当に見事でした
1971年のフレンチコネクション、1975年のジョーズ、1977年の恐怖の報酬の彼と同一人物かと思うほど体を絞っています
顔からして小さく細長くなっているのです
本当に振り付け師にしか見えません
しかも大味な役者と言うイメージを完全に払拭する演技力を見せています
本当に感動する名演技でした
ジョーの別れた妻オードリー役のリランド・パーマーも素晴らしい演技です
夫婦でしかできない目線での会話、くるくる変わるちょっとした表情
何もかも感嘆しました
彼女もまた、ブロードウェイの有名な役者だそうです
本作の後イスラエルに移住したとかでショービジネスの世界を去ったのは残念なことです
冒頭に流れる曲は超有名黒人ジャズギタリストジョージ・ベンソンの「オン・ブロードウエイ」
本作の為に作られたような歌詞ですが、実は違ってオリジナルです
本作の2年前の1978年の2枚組のアルバム「ウイークエンドインLA」の1枚目A面2曲目です
ボーカルは本人
この年のグラミー賞で、ベストR&Bボーカルと男性パフォーマンスの2部門で獲得しています
素晴らしかった
女性を性のはけ口としか思っていないようなクズが主人公で、しかし才能があってエネルギッシュで確かに魅力的だった。そんな男性が好きな、同じようなタイプの女性もいるだろうからそういう世界でやっていれば何も問題はないと思う。ただ子供にはよくないので反面教師にして欲しい。最終的に病気で死ぬが、その死の場面をミュージカルにしてふざけていてすごかった。
好き勝手やって若死にするのだが、別れた奥さんや娘からも別に疎遠になっておらず、なんか都合のいい話であった。あんな楽しそうに生きられたら早死にしても仕方がないと納得した。
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