劇場公開日 1949年1月29日

「ディケンズの世界が見事に映像化されたイギリス映画の古典的ドラマツルギー」大いなる遺産(1946) Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ディケンズの世界が見事に映像化されたイギリス映画の古典的ドラマツルギー

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD、TV地上波

デヴィッド・リーン監督と云えば「アラビアのロレンス」のみが語り継がれているが、初期の「逢びき」や中期の「戦場にかける橋」、そして後期の「ドクトル・ジバゴ」「ライアンの娘」も名作の名に相応しい。そのリーン作品の中で個人的に最も好きな映画が、この「大いなる遺産」だ。チャールズ・ディケンズの世界観とストーリーテラーの面白さが、リーン監督の手堅く洗練された演出と個性的役者の好演、それにガイ・グリーンの素晴らしいモノクロ映像美の撮影により、完成された古典的ドラマツルギーの模範の領域にある。「ライアンの娘」の父役ジョン・ミルズが、何と若々しく主人公を演じていることか。まだ幼さが残るジーン・シモンズの早熟な少女の可愛らしさとのコントラストもいい。主人公ピップの義兄を演じるバーナード・ミルズのお人好しなところや、切れ者弁護士役の巨漢フランシス・L・サリヴァン、ピップの親友役のアレック・ギネスの頼りなさげなか細さ、そして脱獄囚のフィンレイ・カリーのかくれた善人性と、イギリス演劇の役者たちの厚みに感服するしかない。荒涼とした大地と不気味な雰囲気を醸し出す流れる雲の空を捉えた映像の冒頭からラストの大団円まで、リーン演出によるディケンズの世界を堪能できる。

Gustav