「映画と女性を愛したフランソワ・トリュフォー監督の優しさが詰まった映画の映画」映画に愛をこめて アメリカの夜 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
映画と女性を愛したフランソワ・トリュフォー監督の優しさが詰まった映画の映画
フランソワ・トリュフォーという人が如何に映画狂であるかが、身に染みて分かる作品であると共に、これは映画愛好家にとって堪らなく素敵な映画である。映画制作の撮影風景をフランス映画らしくロマンティックにユーモラスに表現して、全編恋と愛の自由さを躊躇なく溢れさせている。制作現場を舞台にした二重の映画のバックステージものの面白さに潜む、トリュフォー監督の正直な気質が汲み取れる映画の為の映画だ。そのテーマは、”真実”と”事実より真実らしく見えるもの”とのどちらに人を幸福にする真実の美しさがあるのかであり、映画演出にある表現の本質を具体的に見せてくれる。それを映画制作に真摯に取り組むスタッフ・キャストたちの実生活の恋愛関係を含めて提起されているのが面白い。
映画「パメラを紹介します」の大掛かりなセットの撮影風景から始まり、劇中の息子が実父を射殺するラストシーンまで、映画はあらゆる裏話、トリックやスタントマンの仕事振りなど、完成した映画では計り知れない楽屋落ちを暴露する。観客の興味や好奇心を素直に引き出す爽やかな印象が残る。トリュフォー監督の言葉で言えば、(人を退屈にさせること、一部の人にしか語りかけないことを禁じている)の真意に適った作品に仕上がっている。
流麗でリズミカルな音楽と移動カメラや撮影シーンの連続カットのモンタージュが一つになった演出タッチの心地良さ。最後にTVレポーターの質問に大道具係が答える。(我々がこの映画「パメラを紹介します」を楽しんで作ったように、お客さんもこの映画を楽しんで観てくれれば言う事ないな・・・)トリュフォー監督の優しく温かい人間性が感じられる。映画と女性を愛するトリュフォー監督そのものの映画作品だ。
1976年 4月29日 早稲田松竹