劇場公開日 2019年9月27日

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「映像・音楽・俳優を愛でる映画」ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト kokobatさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5映像・音楽・俳優を愛でる映画

2024年1月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

泣ける

楽しい

幸せ

いわゆる一般的滑らかなストーリーを楽しむ映画ではない。

『荒野の用心棒』のような胸のすく外連味を遠ざけ、
本来なら90分に収まるプロットを165分かけて描写したストーリーだ。

しかし映像と掛け合うストーリーや人物造形上の仕掛けなどはあり、それは俳優の長台詞に頼らず最小限のダイアログとゆったりした動きで描かれる引き算の映画だ。

そのハレを厳選しケを引き伸ばした間引きの話法の、日本映画との関係などは多分詳しく分析している人はいるのだろう。

贅沢に撮られた遠景ロケーションと極端な人物クローズアップ、タルコフスキーばりに間をとった編集と、電光石火に圧縮されたアクションによるドラマの展開と収斂の鮮烈。
セットもコスチュームもプロップも全て手が込んでる。
そこには過去の西部劇の名匠達を受け継ぐ雄大な詩情にフォーカスした世界が確かに在った。

編集次第でもっと売れる大衆的傑作にもなっただろう。
映画、または西部劇の可能性とはそこだけにはないという事を意志を持って示した作品であるという点において、これは予め誹りも受け入れた作品であろう。

その大衆性を捨て置いた贅沢さに老婆心ながら興行師はさぞ寿命が縮んだ事だろうと想像する。

個人的には顔が切れるほどのクローズアップが頻出するのは好みでないが、他の美点がなだめてくれる。

それにつけても主要キャストの魅力が素晴らしく際立つ。
特に私が感じたのは本作を通して出演時間は意外と多く無いブロンソンが、彼のキャリアを通してしばしば醸し出す「結局お前何者やねん」という通奏低音。
それが本作で最高の強度をもって作品の味わいを支配したという納得だ。
本作でも、ブロンソン出演作『雨の訪問者』などにみられる、いかがわしさを振り撒き死神の様にも見える「優しい野獣」の魅惑に男女問わず魅入られる事請合い。

本作でも披露される「ドアを蹴破るor悪漢を前蹴りで蹴り飛ばすのが世界一似合う漢」がC.ブロンソンである。

フォンダの怖気のする円熟、ロバーツの巧みな二面性、カルディナーレの逞しさと可憐(これはやや監督の不得意か)。
それにしても皆、度を越してドーランが黒い。

文芸を愛し西部劇を見下す諸兄方々等はひとつ本作を観てから再考されたい。

kokobat