劇場公開日 2019年9月27日

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「構図で魅せる映画術の見本!」ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0構図で魅せる映画術の見本!

2019年9月30日
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鑑賞方法:映画館

昔むかし、鉄道敷設工事が始まったばかりの西部のある田舎町で、駅舎の建設工夫たちに明るく酒を振る舞う美しい未亡人がいた。
この未亡人には、こんな数奇な物語が隠されていたそうな…

公開から50年、レオーネ没後30年にして、2時間45分の完全版が劇場公開されたことは、嬉しい限りだ。
完全版がソフト化されたのはずいぶん前だが、劇場の大スクリーンで観られるとは思わなかった。
モニュメント・バレーの堂々たるロケーションは、やはり劇場でこそその圧倒的迫力を感じることができる。

短縮版で日本公開された「ウエスタン」は、当然リアルタイムではないが、学生の頃に名画座かオールナイトかなにかで観て、劇画も真っ青なあの大胆な構図に魅了された。
短縮版でも充分に大作の風格があった。
今回の上映でタイトルを原題のカタカナ表記に変更しているが、「ウエスタン」はよく考えられた粋な邦題だと思う。

アメリカ資本だから実現した壮大なアリゾナロケーションだと思うが、やはりハリウッド純正西部劇とは異なる毒気というか、一種異様な雰囲気があって堪らない。
セルジオ・レオーネの映画文法とエンニオ・モリコーネの音楽が、この独特の空気を作り上げている。

有名な、寂れた駅での銃撃戦に至るイントロのシークエンス。
何よりボロボロの駅舎のセットが極端で面白い。
撃ち合いが始まるまでが、無言で長い。
三人の悪党(かどうかの説明はないが、見るからに悪党)の油ぎった顔が超アップで映され、風になびくコートの芸術的な動き、木製のホームを踏む重い靴音とカラカラと風車が回る乾いた音が印象的。
これから起きる決闘を予感させて、惹き付ける。
そして、聴こえてくるハーモニカのメロディが、とてもチャールズ・ブロンソン演じる謎の男が吹いているようには聴こえない。
台詞のアフレコが口の動きと少しずれている。
このリアリティとは一線を画す演出が、不思議な印象をもたらす。

クラウディア・カルディナーレ(C.C.)演じるジルのテーマ曲は、本作のモリコーネの音楽の中で異質だ。
女声ハミングが重なる優雅なメロディは、その場面だけが別の映画かと思わせる程だ。
駅に降り立ったジルは、来ているはずの迎えがいないため、駅員に馬車がチャーターできる店の場所を訊ね、そこに向かう。
ここまでC.C.に台詞はない。
この駅舎の中のジルの様子を外から窓越しに撮り、画面奥の駅の外に歩いていくジルの後ろ姿を追うようにカメラが上へ昇っていくと、屋根を越えて町の様子が俯瞰で一望される見事なワンカット。
この素晴らしいカットにジルのテーマが乗る。
物語上はなんということもない場面だが、音楽と映像の効果で感動的ですらある。

レオーネは、既に西部劇の製作に終止符を打つつもりだったが、アメリカからの強いオファーに加えてヘンリー・フォンダの出演がOKとなったことで、もう一度チャレンジすることにしたらしい。
この頃既に、レオーネは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の構想を練り始めていたのだ。

レオーネが物語作りに協力を要請した二人の映画青年が、若き日のベルナルド・ベルトルッチとダリオ・アルジェントだったというのが、歴史の妙だ。
三人のコンセプトは「ヴィスコンティが西部劇を撮ったら…」だったというから、この発想も驚き。

レオーネの西部劇において女性はアクセサリーでしかなかったが、ベルトルッチの説得で女性にスポットを当てた物語が出来上がったという。
だが、画的には見事にC.C.をフィーチャーしているが、やはり女性の心理描写はあまり得意ではなかった様だ。

ハーモニカ(ブロンソン)、フランク(ヘンリー・フォンダ)、シャイアン(ジェイソン・ロバーズ)という三人のガンファイターの、美貌の未亡人を誰が守り抜けるかという競い合いに、それぞれの恨みと野望とプライドが絡み合った物語だ。
ブロンソンは、後に「レッド・サン」(1971年、テレンス・ヤング監督作品)でも三竦みの闘いで生き残り、好敵手を弔った。

kazz
活動写真愛好家さんのコメント
2023年9月2日

この「ワンスアポンアタイムインザウェスト」のタイトルでソフト化して欲しいですね。

活動写真愛好家
NOBUさんのコメント
2023年1月22日

今晩は。
 今作は先週、エンニオ・モリコーネのドキュメンタリー映画を観てから知った映画です。(ハッキリ言って、年代的に初心者です。)
 セルジオ・レオーネ監督作は代表的な作品は鑑賞しましたが、ほぼ総て配信です。
 今作を映画館で鑑賞されたKazzさんを始めとした先人の方々に対し、私は比肩するものはありませんが、本日鑑賞して思った事は”優れたる映画の価値は時空を越えて厳然と存在する。”と言う当たり前の事でした。
 そして、拙レビューにも記載しましたが本作のレビューを挙げられている方々の(当然、Kazzさんを含めてです。)該博な知識及び映画愛には敬服した次第です。
 今作の面白さは、”ホント、参りました。”というモノでした。
 これからも、宜しくお願いいたします。では。

NOBU
rin*さんのコメント
2019年10月1日

コメントありがとうございます
せっかくの映画館上映の機会なのに、楽しめなかった事に自分でも残念でした。また縁があれば観てみたいと思います。

rin*