「この時代だからこそ」いまを生きる CHUSAさんの映画レビュー(感想・評価)
この時代だからこそ
この映画が公開されたのは1989年、僕はこの映画を20年以上前に観た記憶があるが当時はあまりピンと来なくてそれから今まで一度も見直したことがなかった。それでなぜ見直したかと言えば、幕が上がるの本広監督が映画のパンフでこの映画の名前を出してたからだ。主役のロビン・ウィリアムズが去年に不幸な死をとげてさらに有名になったかもしれない。そこで20年以上ぶりに観てみることにした。
自分たちの世代でこの映画を観てテレビドラマの金八先生を思い起こさない人はいないだろう。型破りな先生がホントに生徒たちのことを思いやりながら教鞭をとっていく、この日本で大ヒットしたドラマはこの映画の10年位前から始まった。金八先生の時代の学園生活は校内暴力が流行した荒れた時代だったが、これはなにも日本だけの出来事ではなかったらしく世界中の学校が荒れていたらしい。処刑教室という今ではDVD化すらされてないカルト映画があるのだが、この映画はいまを生きるとはまるで正反対の映画で狂暴化しまさにマフィアかヤクザかと言わんばかりの生徒を堪忍袋の緒が切れた先生がノコギリや車、火あぶり、そして天井から突き落として処刑する映画なのだ。そして金八先生もこの時代では中学生で妊娠した生徒や校内暴力で暴れまくる生徒を取り上げており、当時の腐ったミカンという言葉が流行したくらいだった(意味は段ボールの中に腐ったミカンが一つあると全部のミカンが腐るから腐ったミカンは捨てなければならないってこと)
もしこの処刑教室の時代にこの映画が公開されていたら、この作品がヒットしアカデミー賞関連を取ることが出来ただろうか?正直大昔のくだらない映画だと言って見向きもされなかったのではあるまいか?そして10年が経ち映画の設定は1950年代から60年代の設定ではあるとしても、今度は生徒たちが先生を胴上げしエールを送る側に立つ。校内暴力はすっかり収まり、ダイ・ハードのテロリストたちはブルース・ウィリスに完全に退治され、そして感動のラストを迎えるような時代になった。80年代の中盤から後半にかけてはこうした映画が主流だったように思う。つまり日本の勧善懲悪なファンタジーな映画の全盛期だったというわけだ。
この映画で生きる希望とか青春のすばらしさとかいったありがちな感想を持たれる方も多いことだろうが、自分のように同時代に青春を送った人間からすればこれは夢の中の世界を閉じ込めたような映画だと言っていい。校内暴力は収まったが現実の抑圧された学校生活が終了したわけではなく、受験戦争もピークを迎えた時代だった。それでもこうして映画を観ればその現実は一時でも忘れることが出来る、つまりはある種の現実逃避なのだ。そしてこの映画はそれを完璧に果たしてくれる映画として機能している、まさに映画が夢だった時代の象徴的な作品なのだ。