劇場公開日 1963年11月16日

「ひとことです言えば大人の映画です」いぬ(1963) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ひとことです言えば大人の映画です

2022年9月27日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

1963年公開、フランスの白黒映画
フイルムノワールの傑作として名高い作品です
監督はジャン=ピエール・メルヴィル
本作の次の次の作品がフイルムノワールの金字塔「サムライ」になります

フランス映画を観たという満足感があります
恋愛ものの良い映画が山ほどありますが、ノアールものもまたフランス映画の醍醐味でしょう

冒頭、タイトルロールの間、鉄道ガード下の半地下の歩道をトレンチコートに帽子の男がポケットに手を突っ込んでただ歩いています
もうそれだけで心を鷲掴みにされます
映像のスタイリッシュさは半端ありません

映画の最初に帽子とは隠語で警察のいぬのことだとテロップがでます

そしてラストで撃たれて倒れた人物が被っていた帽子が床に転がるシーンで映画は終わるのです

音楽がまたお洒落
クールジャズが気づくといつの間にか薄く低く流れています
これが全編に渡って本作を支配しているムードです
拳銃を撃ち、女を殴り、走るシーンもあります
怒鳴るシーンもあります
だけども大変に抑制されているのです
一言で言えば大人の映画です

なんだか池波正太郎の「鬼平犯科帳」を思い出しました
彼は映画好きの作家で有名で、「フランス映画旅行」という著作もあります
代表作の「鬼平犯科帳」はもちろん時代劇ですが、本作と似た雰囲気が濃厚にあるのです
もしかしたら本作のようなフランス映画のノワールものが下敷きになっているのかもしれません
「鬼平犯科帳」は本作の4年後、1967年から連載がスタートしているのです

そして1964年の日本のフイルムノワールの傑作で篠田正浩監督の白黒映画「乾いた花」も思い出しました
その作品もまた本作から刺激を受けたように思います

シリアンのようにスコッチを飲みたくなりました
もちろんクールジャズの流れる薄暗いバーでゆっくりと

あき240