「女優は目で語る。…男優もか。」イヴの総て とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
女優は目で語る。…男優もか。
おもしろい!
今でこそこの設定はありふれた物だし、身近にも、職場での手柄の取り合いとか、よくある話なのだけれど、
その中でも、何度もリピートしたいダントツの映画となっている。
筋を知っていても、筋を知っているからこその人間模様の描き方を堪能してしまう。
演劇界の内幕もの。新旧女優の交代劇と言われる。
けれど、その中に、様々な感情・生き方が描かれていて、単なる栄枯盛衰ものとしてだけでなく、惹きつけられる。
出会った瞬間から、イヴの本質をつくバーディー。
皆がイヴに入れ込む中、イヴと共に働きながらも、イヴを冷静に観察している。
ビルの誕生日に、マーゴのベッドルームでかわす、マーゴとバーディーの視線。ああ、ぞくぞくする。
けれど、バーディーの立場上、ここの登場人物に、自分からそれを言うわけにはいかない。プロとしての矜持(言っても僻みとしかとらえられないし)。
そして…。
マーゴの、その時々の表情。
「演劇界の内幕もの」と言われるが、
マーゴだけに焦点をあてて、若さを武器にできないと思っている女の心の揺れ動きを描いた映画としても見ごたえある。
楽屋での、役から素に戻る途中の化粧姿こそ、皺が目立ち年齢を感じさせるが、それ以外での着こなし、表情、立ち振る舞い。ふてぶてしさ・泣き顔までが美しく、かわいらしく、愛おしくなる。
年の差。いつの世にも存在する永遠の課題。愛しているからこその悩み・いらだち・悲しみ。
そして、カレン。本当に、踏み台にされたのはカレンだろう。
同じマーゴの信奉者として、優しく嬉々としてイヴの手助けをしていたカレン。その人の好さが、マーゴとの友情を試されるはめに陥る。その時々の表情に共感してハラハラしてしまう。
ビル。マーゴとのすれ違いが胸をつく。
イヴの若さ、相手のことを考えての気配り。すべてマーゴにはないもの。その”特質”をビルが欲しているのではと怯えるマーゴ。だったら、若さはともかく、気配りしてあげればいいのに、性格変更は難しい。
ひたすら、女としてはマーゴしか見えていないビル。だが、愛する人はそれを信じてくれない。
なんというすれ違い。もどかしいけれど、もどかしいなんて言ってられない。二人の気持ちに入れ込んでしまう。
この状況で、マーゴがすべてを失うのかと思っていたら…、意外な展開を見せる。
新しい価値を手に入れ、雨降って地固まる。
カレン・ロイド夫妻にも影が差すが、冒頭・終盤の様子を見れば、夫妻の信頼感は崩れることはなかったのだろう。
そして、ドゥイットによるイヴへの反撃。
人を誑し込んで、思うように扱ってきたかのようなイヴは、ドゥイットもその手口にと思いきや、ドゥイットの蜘蛛の巣にかかっただけというオチ。ヤクザより怖い。
新たなフィービーの存在。
歴史は繰り返すと言いたいが、イヴが、そうそう自分がしてきたのと同じ手口に引っかかるとは思えない。どんな攻防が繰り広げられるのだろうか。続編ができそうだ。
大女優の付き人になって、その女優の代役で芽を出す。
これだけなら、特に「大女優を踏み台にして」と言われる筋合いはないだろう。登竜門の一つだ。有名な演劇マンガ『ガラスの仮面』でも、代役でというエピソードが出てくる。マーゴの演技を真似るのだって「学ぶの原義は真似る」だ。それだけなら、そしりを受ける罪はない。
では、イヴがやったことでまずいのはなんなのか。
世話を受けておきながら、批判すること? 批判なしの盲従はかえって人をダメにする。より高める方向に動くのなら歓迎されるべきだ。師匠はこう演じたけれど、私はこう解釈してこう演じるとか。イヴの言った「若い役は若い役者に。年齢相応の役を。」は、ある意味良い指摘だ。イヴはマーゴに止めを刺したつもりなのかもしれないが。マーゴが悩んでいた本質の一つでもあるのだから(マーゴはロイドに年齢相応の役を描いてと頼んでいる。:実際にディビスさんが映画で演じられた役に似ている)。
だが、イヴは、マーゴたちに言うことと、ドゥイットに言うことが違い、信義にかけていた。足の引っ張り合いはお互いをダメにする。
そして、自分の力量だけでのし上がるのではなく、男頼みにしようとして、恩ある人々の大切な人であるビルやロイドを誘惑した。ビルやロイドが演劇界に力を持っていて、彼らを利用すれば、さらにのし上がれるという計算が働いたとしても、これはまずいだろう。受けた恩を仇で返す。しかも、恩人へのダメージも狙って。
それでいて「友達」と言う。一番信用を失うパターン。
演劇界の内幕を描いた、たんなる暴露ものではない。人の”信義”の話を描いた映画。だから人を引き付けてやまないのだろう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
見ごたえある役者ばかり。
バーディーを演じられたリッターさん。
『裏窓』の看護師と役柄は似ているのに、全然違う。それでいて、マーゴとのコンビが良い。
イブを演じられたバクスターさん。
冒頭の清楚な雰囲気の中にも、「お願い」「忘れられたと思っていました」と言う時の、裏がありそうな匂わせ方がすごい。秘書としての世話役姿も、一見献身的に尽くしている姿でありつつ、ここまで踏み入るかという狂気の匂わせ方がすごい。カレンを脅す場面の二枚舌からの変わりよう。さりげなさすぎてすごい。
癖のあるデイヴィスさんとバクスターさん・二人の女優に比して、カレン役のホルムさん。
その普通さが印象的。それゆえにイヴの厭らしさが際立つ。キャリアはあるが”夫”のないマーゴと、キャリアはないが”夫”のあるカレンという対比も、女の幸せとはと考えさせられて、良い対比となっている・
ドゥイット役のサンダース氏も、公正な批評家と思いきや、初インタビューのさりげない罠の仕掛け方とか、徐々に見えてくるいやらしさがさりげなさ過ぎてすごい。
『レベッカ』でも物事をかき回す役だったが、こちらの映画の方がしたたかさがじわじわとくる。『イタリア旅行』での慇懃無礼さにも通じるものがあるが、『イタリア旅行』では仕事重視のただの紳士。この映画での罠の仕掛け方、一種の大逆転を計算しているしたたかさが見事。
ビルを演じるメリル氏は、この映画がきっかけで、ディビスさんと結婚されたとか。実生活でもこんな風にアプローチしていたのだろうか?
そのエピソードとは関係ないけれど、加藤健一氏に見えてしまう(笑)。
モンローさんもちょい役で出演。
ディビスさんやバクスターさん、ホルムさんに比べて、鈴を転がしたような声。しゃべり方も独特。ああ、これでは役に幅が出ないなあ。似たような役しか来なかったのはこのせいかなどと思ってしまう。まだモンローさんの映画は『紳士は金髪がお好き』くらいしかまともに鑑賞していないので、勘違いかもしれないが…。
フィービーは、バービー人形に似ている。
と、視覚的にも印象が残る芸達者が勢ぞろい。
なのに、鑑賞後もデイヴィスさんの面影を追ってしまう。
他の映画も追ってみたくなった。