「神 > 人」アギーレ 神の怒り Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
神 > 人
エル・ドラドを征服し、自らが“神”になろうとした男の悲劇を描く、鬼才ヘルツォークが描くアンチヒロー叙事詩。スペイン部隊が列をなして険しい峠道を越えるファーストショットから唸らされる。このワンショットだけで、神に挑もうとする人間のちっぽけな存在が的確に表現されているからだ。これだけで既に「神>人」という本作のコンセプトが明確にイメージできる。前人未到のジャングルを縫う大河を、ちっぽけな筏でバカバカしいほど仰々しく下る連隊。コッポラの『地獄の黙示録』の狂気を上回る狂気が画面全体を包み、観ている者の思考を麻痺させて行く。呆然とした我々は、アギーレをはじめとする黄金に取りつかれた人間の暴力性をただ見守るだけだ。エキセントリックなクラウス・キンスキーが狂気をエスカレートさせて行く様は、迫真を通り越して背筋が寒くなる思いだ。欲にかられた人々の価値観の崩壊がとても恐ろしい。仲間割れや奴隷の反乱はもとより、芦の船に乗って来た救世主として歓迎してくれた現地人を、黄金の在りかを知らないというだけで無残に殺す。神に仕える僧侶ですら、宝石に飾られた黄金の十字架に目が眩むのだ。そんな彼らを容赦なく襲う、熱さ・湿気・熱病・飢餓、そして原住民。次々に死んでゆく仲間の中で「俺こそ怒れる神だ!」と息巻くアギーレの足元には夥しい数の野生の猿。哀しいかなアギーレの築いた夢の王国では、その猿たちでさえ征服することはできないのだ。長回しのカメラが回転して彼の姿を捉える。この衝撃的なラストシーンに息をのむ。彼の王国はこのカメラにすっぽり収まってしまうような小さな小さな筏。彼の辿り着く先は、輝く黄金郷ではなく孤独でみじめな死だろう。最期に彼が見るのは何だろうか?幻の黄金郷か、それとも神の姿だろうか・・・。