愛欲(1937)のレビュー・感想・評価
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ミレーユ・バラン
30年代の女優の細眉は妖しい雰囲気
女らしさの強調らしいが、ちょっと触角も連想した
ディートリッヒやハーロウが有名だけど
このミレーユ・バランもよく似合う
田舎の駐屯地で色男と騒がれていた男(ギャバン)が美女を見初め
自分が散々してきたことをされたりもするのだが
一途に、あるいは執拗に追いかけてゆく
後腐れをよしとしない色男の流儀は終わりか
軍服効果は抜群で〈脱いだらただのひと〉というのも
最初は理解できない
パリで金持ちの愛人として暮らす女は
その美貌をさらに輝かせるような贅沢な生活を捨てられない
親も使用人もそれを当たり前と考える
〈愛人やめたらただのひと〉と皆やっぱり思うのか
彼女の人間性に疑念を抱き、驚く男の前に現れ
折衷案を出してきたりする
友情を理解する男としない女の違いとも思える
仲間と戦ってきた男とパリで身ひとつで生きてきた女の違いとも言えるだろうか
そして駐屯地の女たちとは異質の冷ややかさ、支配力
それぞれの俳優の持ち味がよく出ていた
そして映像は歯車が大きく狂っていく過程を緻密に見せていた
ミレーユ・バランのその後の人生に起こったことを知り
彼女の美しさがさらに悲劇性をおびて見えた
泣く男
モテモテの色男(英題Lady Killer)も妖婦にかかると「恋は盲目」になってしまう。あんなおセンチなジャン・ギャバンは初めて見ました。やはり人は見た目なのですね。
本作はさらに訴えます。人は、他人の判断基準として、(軍人とか、医者とかの)肩書きしか見ていないということを。オランジュの食堂の女房は、ジャン・ギャバンが軍人を辞めた途端に随分素っ気なくなってしまったし、新たにやって来た軍隊行進の「影」しか映さない演出は、とても象徴的でした。
これに限らず、凝ったカメラと演出が突き抜けている作品です。パリ ビュット・ショーモン公園での逢瀬の場面のギャバンの高揚感、パトロンと鉢合わせの修羅場での虚勢と失望、そして終盤店での再会の前、シェード越しにギャバンが一瞬怯む描写と暗い部屋の奥に静かに座っているバランの対比。グレミヨン監督のセンスが冴え渡ります。
男たちを翻弄するバランの意図がよく分からないところは確かにありますが、バンプはこれくらい謎めいていた方がいいんです。
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