「ベルイマン映画では珍しく気軽に楽しめる恋愛喜劇」愛のレッスン Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
ベルイマン映画では珍しく気軽に楽しめる恋愛喜劇
難解で深刻な愛憎ドラマを連作するイングマル・ベルイマン作品群にあって、この初期の作品は意外にも分かり易い恋愛喜劇になっていた。後期の傑作とは別個の存在である。それでも制作された1954年の時代を想像すると、ベルイマンらしい大胆な愛欲描写や男女間で交わされる際どい会話の表現は先鋭的であったと思う。生と性に対する意識の高さに驚かされるし、つまりは大人の映画であった。また名作「野いちご」にあった上流階級の登場人物の幸福感が、ここではもっと明るく楽しく理想的に描かれていて、最近になくこの映画が気に入ってしまった。苦悩する人間の暗さがない分、その人間的な面を身近に感じて、通俗的な物語を適度の品の良さで見られる映画らしさに好感が持てたのだ。
主人公は、産婦人科の医師である。診察室で若い女性の誘惑を払い除けて、コペンハーゲン行きの列車に乗るため急いでいる。車の中で、その女性との想い出話が語られる。この妻帯者の医師が強引に誘惑してくる彼女に最初は苦しめられながら、結局はうまい具合に関係が出来てしまうところが面白い。ベルイマン監督の人生経験が反映されているのか願望なのか、興味深いところだ。ここから男と女の風刺劇が始まる。列車には、もう15年の結婚生活を経て来た妻が同乗していて、夫婦の間柄を知らない或る男が、どちらがこの女性(妻)を口説けるかの賭けを持ち出す。くだらない寸劇のようだが、これを真面目な演技でやられると笑ってしまう。ここで主人公夫婦の結婚の経緯が入る。実はこの妻、医師の友人の彫刻家と結ばれるはずだったのが結婚式の当日に心変わりして、彫刻家を裏切る形で主人公に愛の告白をしてしまう。すると体格の良い彫刻家と医師の決闘が始まり、活劇のような展開だ。
最後は別れようとした妻をどうにかこうにか煽てて、よりを戻そうと四苦八苦する主人公が哀れである。男の愚かさを皮肉った喜劇なのだが、そこに祖父と祖母の老成した夫婦愛で見守る温かさと、娘の現代的な自由精神からの視点を入れて、ほのかな人生観が浮き上がる内容になっている。ベルイマン作品でも、楽天的なタッチで終始した喜劇映画。三世代の登場人物を絡めて、ブルジョアの人生哲学を垣間見せる作家のゆとりが感じられた。
1979年 4月28日 フィルムセンター