「村上春樹の映画化では、稀有な成功作だと思う」トニー滝谷 mac-inさんの映画レビュー(感想・評価)
村上春樹の映画化では、稀有な成功作だと思う
2008年に59歳で惜しくも亡くなった市川準の2005年の作品。原作が村上春樹の短編。
村上春樹は、初期の作品から「ノルウエーの森」あたりまで、好きで読んでいた。最近は読んでないが、映画は村上春樹の文体を思わせる映画で、原作自体を読んでいないが、確かに村上春樹の世界を感じさせる映画だった。
大森一樹が「風の歌を聞け」を80年代に撮ったが、出来は、まあまあだったが、結局、村上春樹の原作を映画化する難しさを感じさせたものだった。今回は、市川準の作風に合ったのか、とてもいい具合に映像化されていた。
村上春樹の小説を一言で言うと、自分(主人公)と外界(他人や物など)との距離感を絶えず確認していくことがテーマのように思った。そこには、独特の孤独感があり、群れたがる日本人像とは一線を画す主人公像を感じられ、それが私にとって村上春樹の小説の魅力だった。
この映画「トニー滝谷」はその辺がとてもうまく映像化できていて、尚且つ、美しい。映画としては、劇的な部分が少なく、淡々としているが、その辺も魅力になっている。
主人公はイッセー尾形。彼はいつもの臭さは感じるが、それがひとつ孤独をまとったスタイルにも見えて適役だった。相手役の宮沢りえも危うい雰囲気が魅力的で、これも村上春樹の小説の住人になっていた(宮沢りえはひとり二役)。
撮影スタイルの統一感や、スケッチ風な描写で、ストーリーで語るのではなく存在(人も物も)のありようを克明に描くことで、語られるこの映画世界は、村上春樹の小説の雰囲気を上手く表している。
ラストの終わり方も秀逸。見る側に、戸惑いと寂寥感を残してしまう。
ちょっと変わった映画だが、やはり傑作だと思う。
「ノルウエーの森」や「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」も市川準に是非映画化してもらいたかった‥‥。