「秘密を持たない不自然さ」空中庭園 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
秘密を持たない不自然さ
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小泉今日子という女優の魅力が改めて解った気がする。様々な監督が彼女を起用するわけだ。儚げな外見の下に隠れる狂気・・・。そんな女性をこともなげに演じられる彼女の儚げな外見の下にある確固たる情熱。アイドル時代には見られなかった大人の女性の“不確実さ”、それが女優・小泉今日子だ。本作に登場する“家族”は「秘密を持たない」のがルールの仲の良い家族。思春期の子供たちの前で、ラブホでエッチした経験を語れる両親。幸福な家庭像だが、何か違和感をぬぐえない。秘密のない人間など本当にいるのだろうか?案の定それぞれ大きな秘密を抱えていることが次第に明らかになり、何とか取り繕おうとしている母(小泉)は次第に追い詰められていく。母親に虐待され、学校でイジメられていた彼女の夢は「幸福な家庭を作ること」。それだけのためにあの手この手を駆使して、今の地位を築いた。家族の揃う食卓を整え、ベランダでガーデニング。完璧な笑顔(この笑顔が空恐ろしい)の裏に蠢く憎しみ・・・。しかしそれらの憎しみが「記憶のすり替え」によって自分自身を追い詰めていることを彼女は気付かない。赤い血の雨の降る心象風景の空中庭園(ベランダの庭)で絶叫する彼女の狂気を前に、私はただただ祈った「家族が、誕生日プレゼントを持ってもうすぐ帰ってくるから、どうか早まったことをしないで!」と。本作を観ると、人が「秘密」を持たないことの不自然さがよく解る。人は誰もが「秘密」を持っている。「秘密」を持つことによって、人に対しての配慮や思いやりが生まれる。「秘密」を持たないあけすけな心は、大切な人の心もすり抜けて行ってしまうのだ・・・。
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