「殺人事件が結んだ絆」理由 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
殺人事件が結んだ絆
大林宣彦監督が宮部みゆきの大長篇ミステリー小説を映像化した2004年の作品。
元々はWOWOWで放送されたTVドラマで、後に劇場公開された。
雷雨のある夜。東京都荒川区にある高級高層マンションの一室で、居住者の死亡事件が発生。
一人は転落死、他3人は惨殺体となって。
一見、4人家族の殺人事件のように思えるが…、実は居住者は3人家族。
さらに、4人は赤の他人である事も分かり…!
実にミステリー心をくすぐる。
謎と犯人捜し。事件の真相は…!?
…と、普通にやればこうだろう。
しかし…
映像化不可能と言われた原作小説。と言うのも、
100人近い登場人物。その関係者らへのインタビュー形式のドキュメンタリータッチ。章仕立て。事件当時~数ヶ月前~数十年前が複雑に交錯。
確かに映像化は難しそう。原作小説になぞらえてやれば単調になるかもしれないし、普通にミステリー劇としてやればヘタすれば凡作になってしまう。
が、今は亡き異才が選んだ演出は、前者だった。
本当に先述の通り展開。
100人近い登場人物。ゆかり、ベテラン、実力派、17年も前の作品なので今は売れっ子人気者となった新人、贅沢なゲスト出演…大林監督ならではの超豪華キャスト。
ドキュメンタリータッチなのでキャストがカメラ目線で喋ったり、インタビュー形式なので時々マイクが画面に現れたり、演出もユニーク。
いつもながら原作は未読。が、章仕立てや時系列が交錯する展開が、作品を“見ている”のに小説を“読んでいる”ような錯覚にすら感じる。
そこにお馴染みのスタイルも勿論で、天晴れ!
宮部ミステリーは単に犯人捜しのミステリーではない。人や社会の暗部に切り込む。
隣人の顔も知らないマンション暮らし。ご近所付き合いが面倒。が、今では一戸建てでもご近所付き合いがほぼ薄れ…。皮肉を感じる。
さながら、隣の人は誰…? それ故起こり、法の目を掻い潜った事件。
占有屋。競売物件を落札した人に対し、居座りながら膨大な立ち退き料を要求する悪質な手口。暴力団絡み。
彼らが関わりつつ、事件には加害者がいて、被害者もいる。
皆、この事件に関わった事で人生の歯車が狂い…。
当時の社会問題、バブル崩壊後、もっと時を遡って夢を抱いて上京して来て…。
各々の苦悩、社会背景、それらが絡み合う。
エンディングの歌の一節じゃないが、“殺人事件が結んだ絆”としか言い様がない。(この歌がとても不気味…)
OPで荒川区の成り立ちが紹介される。
人と人が触れ合う活気溢れる下町だったという。
それがいつの頃からか、時の流れと町の様子が激変すると共に…。
もし…もしもだが、昔のような人情満ち溢れる下町風情だったら…?
こんな孤独で悲しい事件は起きなかったかもしれない…。
何もこれは荒川区だけしゃなく、現代日本全てに言える。
現代社会への警鐘を鳴らしつつ、
謎、謎、謎…。
証言者、目撃者、失踪者、重要参考人…。
複雑に絡んでいた人間関係や背景が少しずつ紐解かれていく。
そして明かされた真相。
ミステリーとしての醍醐味も充分!
あちこちの映画サイトやレビューでは何だか低評価みたいだが、
大林作品が好きで、ミステリーも好きで、しっかりとした内容や独特の作風も面白く、個人的には楽しませて貰った。
元はTVドラマとは言え、“映画作品”で本作のような本格ミステリーは意外にも少ない。と言うか、本作のみ…?
大林×本格ミステリー、もっと見たかったなぁ…。