「すでに描きたいものをはっきりと見通していた新海誠の、卓越した作家性が実感できる一作」雲のむこう、約束の場所 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
すでに描きたいものをはっきりと見通していた新海誠の、卓越した作家性が実感できる一作
空模様(というか雲)といった自然描写に対する尋常じゃない観察眼と描きこみ、極端なクロースアップやアングルを多用した、フォトリアリズム的な絵作りなど、長編初監督作品にしてすでに、後の傑作に連なる要素が詰め込まれた本作を観ると、新海監督は自分自身が何を描きたいのか徹底的に追及していたんだな、ということが体感できます。
もちろん新海誠のファンでなくとも、パラレルワールド的な現代日本を舞台にしたジュブナイルSF作品として十分に見ごたえがある作品です。いくらなんでも主人公二人が天才的すぎるだろう、とか彼らと世界の危機が直結してるのはなぜか、ちょっと分かりにくい…、といった気になる部分も確かになくもないですが、そんな細かい描写説明を省いても描きたいものを描き切った爽快感が、確かにこの作品にはあります。
制作順でいえば本作の次が『秒速5センチメートル』(2007)となる訳ですが、人物描写の筆致にやや時代感のある本作と比較すると、『秒速~』の方はオムニバス作品で、上映時間も短いとはいえ、映像の品質が大幅に向上していることに驚きを隠せません。確かスタッフの人数も絞り込んでいるはずなのに!
ジュブナイル映画としても、また新海作品を辿る貴重な資料としても、可能であれば今回の特別上映のようにできるだけ映画館で鑑賞したい作品です!
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