「ジャイアン成長譚」映画ドラえもん のび太の大魔境 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ジャイアン成長譚

2024年10月23日
iPhoneアプリから投稿

今なお地球上で人類未到の地は存在するのだろうか?Googleストリートビューは発展途上国の裏路地までをありありと映し出し、このレビューは投稿ボタンを押した瞬間に全世界を駆け巡る。

世界は有限であることが暴かれてしまったのが20世紀という時代である、と総括したのは確か池澤夏樹だったか。

世界の有限性を信じたくない子供たちは危険と隣り合わせの冒険に夢を見る。ドラえもん一行はどこでもドアでアフリカの奥地に存在するという大魔境を目指す旅に出た。殊にジャイアンは冒険のスリルにこだわり、便利なひみつ道具は空き地にすべて置き去りにした。未来によって現代の謎が暴かれることを危惧して。

しかしジャイアンのこの行動が一行を窮地に陥らせる。しかし「道具なんかいらねえ!」と自分から言い出した手前謝ることもできないジャイアンは孤立を深めていく。

いよいよ大魔境と呼ばれる場所に辿り着いた一行。するとのび太が一緒に連れてきていた犬のペコが唐突に喋り始める。なんと彼の正体は大魔境ことバウワンコ王国の王子・クンタックだったのだ。クンタックは悪大臣ダブランダーの権謀により王国を追われ、命からがら日本に辿り着いたところをのび太に拾われたのであった。

かくしてペコ・ドラえもん同盟とダブランダー一味による国家覇権をめぐる争いが勃発する。激しい争いが予想される中、すっかり怖気付いてしまうドラえもん一行。そんな彼らを奮い立たせたのがジャイアンだった。彼の個人的な挫折と再起を、王国の破滅と復興に重ね合わせた脚本の妙技に拍手を送りたい。

終盤のバウワンコ神像を起動させるくだりはアナログな内部構造とハイテクな機能性のミスマッチが逆に気持ちよかった。ジャイアントロボやビッグオーみたいなスチームパンクもいいけど石像もいいよね。それにしても山奥の辺鄙な秘境にこんなテクノロジーが存在していたとは…

世界の有限性を束の間であれ忘れることができる。それこそがサイエンス・フィクションの真骨頂であり、本作はその秀逸な実践だといえるだろう。

因果