「国会議事堂の破壊シーンは本作のテーマがそのまま映像になっており、怪獣映画の長い歴史の中でも屈指のシーンだと感嘆しました」ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
国会議事堂の破壊シーンは本作のテーマがそのまま映像になっており、怪獣映画の長い歴史の中でも屈指のシーンだと感嘆しました
2003年12月公開
前作の「ゴジラXメカゴジラ」の続編です
そのままつながっています
但し主人公は交代
本作の主人公は機龍の整備士です
釈由美子が演じた前作の主人公は、米国へ派遣される研修団の一人となり、壮行会のシーンなど幾つか登場するのみです
本編監督も前作に続き手塚昌明です
特技監督は浅田英一という人に交代です
もともと東宝で中野昭慶監督、川北紘一監督の下で助監督をされていた方です
1990年頃なぜか一度東宝を離れておられたのですが、手塚監督の強い要望で本作で古巣の特技監督に凱旋復帰されたのです
腕前は映像を観ればひと目でわかります
凄腕です
手塚監督が呼び戻した理由がわかります
お話はインファント島から小美人が現れて、機龍を廃絶せよと迫ります
その代わりゴジラからの防衛はモスラが行うと言うところからはじまります
本作では1954年のゴジラと1961年のモスラの来襲が史実になっている世界というわけです
見所は、まず1961年のモスラ第1作に登場した言語学者中條信一が43年を経て再登場して、同じ小泉博が演じます
77歳での再出演でした
次に小美人の一人が長澤まさみです
1999年の東宝シンデレラに選ばれて本作に出演しました
そして、最大の見所はやはり東京タワーと国会議事堂の倒壊シーンです
どちらも圧巻の映像です
特に国会議事堂の破壊シーンは本作のテーマがそのまま映像になっており、怪獣映画の長い歴史の中でも屈指のシーンだと感嘆しました
国会議事堂を画面中央に置いて、右からゴジラが攻撃します
それを阻止すべく左から機龍が反撃するのです
映像は左右逆に見えます
しかしその国会の議事場に身を置いて考えると右がゴジラ、左は機龍なのです
ゴジラとは自衛力の強化への流れ、機龍は平和憲法の遵守をそれぞれ表しているのです
小美人の主張はこうです
機龍にゴジラの骨を使うのは間違いである
ゴジラの骨は眠りにつかせるべきだ
よって機龍は廃絶すべきだ
つまり自衛隊は違憲であり、解散すべきだという主張のアナロジーです、
しかし機龍を廃絶したら、ゴジラの来襲からどう自衛するのか?
そう反論されると小美人はこの様に答えます
モスラが代わりにゴジラの脅威から守りますと
つまり機龍が自衛隊の暗喩なら、ゴジラとは他国からの侵略、モスラは日米安保条約をそれぞれ暗喩している訳です
すなわち、平和憲法の制定と日米安保条約締結の考え方そのものです
1954年の初代ゴジラの時代の考え方です
そこに立ち戻れと小美人は主張しているのです
沖縄に基地があると、他国から攻撃されると主張をする人がいます
まるで、その主張のように、ゴジラは機龍を破壊しようと東京に来襲し、八王子にある機龍の基地を目指そうとするのです
機龍は前作でうけた損傷の修復がまだ途中で出撃できません
前作の暴走で政府も国民の信頼も低下しています
中條博士の孫の少年が学校の机を校庭にならべてインファント島の紋章を作りモスラを呼びます
これは自国が侵攻を受けても、自衛隊は出動させずに、日米安保条約の履行を米国だけに求めようとする姿勢を表現しています
子供じみた考えだということでしょう
期待に応えてモスラは救援に飛来してくれるのですが、ゴジラの圧倒的な力の前に、モスラは敗色濃厚です
それでもモスラは約束を果たそうと戦い続けています
ここに至ってようやく首相は機龍の出動を許可します
「我々は助けてくれるものを見捨てる卑怯者ではない」と
機龍はやっと出動してモスラと力をあわせて戦います
そうして国会議事堂のでのゴジラと機龍の戦いのシーンとなるわけです
右から侵略の現実
左から平和憲法の理想
左右の主張がぶつかりあい、文字通り火花を散らします
相撲のように、何度も右から押し出されそうになり、左から押し返します
そして遂には両者が倒れ込んで国会議事堂が破壊されてしまうのです
なんと象徴的な映像でしょうか!
平和憲法と日米安保で事足りるという
初代ゴジラの時代の考え方が崩壊してしまった映像そのものなのです
モスラの幼虫が増援として、その戦いに加わります
口から吐く糸でゴジラの動きを次第に封じ始めます
機龍の出動から、ここまでのシーンは現実の政治での安保法制の制定への考え方を先取りしたものと言えます
機龍はゴジラをかなり追いつめるのですが、反撃を受けて機能停止してしまいますが、主人公の活躍でなんとか復旧します
あと少しでゴジラに勝てそうになっても、小美人は機龍を海に沈めろと主張するのです
そのとき、機龍はまた暴走を起こします
独自の意志をもって、モスラの幼虫の吐く糸で動きを封じられたゴジラを抱いて日本海溝へ飛び去って行くのです
圧倒的な軍事力を持つ他国からの侵略からどのように、私達は自主的に自衛するのか?
それらについて考えることを停止して深い海の底に沈めて眠らせてしまう
本作の結末はそれです
エンドロールが終わったあとのゴジラのDNA保管庫のシーン
それは一時的な危機をなんとかやりすごすことができて、安全保障について真剣に突き詰めて現実的に考え方ないようにしていたとしても、いつの日にかゴジラは蘇る
そのときどうするのか?
また本作と同じことをくりかえすのか?
それを問うて本作は終わるです
初代ゴジラから49年をかけて、そのテーマをここまて煮詰めて本作で結晶化したのです
実質的にゴジラシリーズの長い物語は本編で締めくくられたのだとおもいます
次作のゴジラFinal Wasは単なる過去作品への回想のオマージュに過ぎないのです
いわばカーテンコールだったのです
2022年の夏
ウクライナの戦争は8月で半年になろうとしています
東アジアの情勢もきな臭さはますばかりです
憲法を改正して自衛隊を憲法に明記しようとした元総理は暗殺されました
その国葬について国論は二分しています
ウクライナにもかって小美人が現れたようです
ソ連時代の核を全て廃棄したら、モスラがあなた方を命がけで助けますと
それをウクライナの人々は信じました
果たしてゴジラは現れましたが、しかしモスラは遠くから牽制するのみだったのです
ウクライナの機龍は懸命に戦っています
ロシアはウクライナの機龍の内部にはゴジラの遺骨があると非難をしているようです
侵攻が始まってすぐキーフのテレビ塔にロシア軍のミサイルが直撃しました
幸い倒壊は免れましたが、本作の東京タワー倒壊シーンを連想された方も多いと思いことでしょう
今こそ新しいゴジラシリーズが求められているのだと思います
ならばどうすべきだったのか?
これからどうするべきなのか?
これからどうなってしまうのか?
誰もが不安で一杯です
ゴジラをアナロジーにして新しい物語を語る時が来たように思います
切にその物語を観たいと思います