劇場公開日 2003年11月22日

「この道はいつか来た道」幸福の鐘 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5この道はいつか来た道

2022年5月8日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

 工場閉鎖に伴い失職した男・五十嵐。運の無さを象徴するかのような雰囲気を醸し出していた彼がまず出会ったのが死ぬ間際のヤクザ。犯人と間違われ逮捕され、そこで知り合った囚人に彼の妻の浮気話を聞いてしまう・・・。そこからは運、不運が交互に訪れ、善行、悪行どちらとも言えぬ行動により幸せって何だっけ?みたいな考えが重くのしかかる。

 疾走感溢れる映画作りが巧いSABU監督。序盤からは緩い展開のように思えるのですが、寺島進演ずる五十嵐が怒濤の人生を短い期間の間に走馬灯のように描いていた。滅多にないことが次々と彼に襲いかかり、まるで人生の浮き沈みを短時間に経験してしまったかのようだった。

 なにしろ車に撥ねられ入院した直後に宝くじの高額当選金(2500万か?)を受け取り、さすがに善行による因果かとも思いつつ、他人の生死をも数々目撃してしまうのだ。鈴木清順演ずる老人の「一人じゃ幸せになれない」という言葉も彼に影響を与えたのだ。大金を手にしても幸福感なんてない。むしろ罪の意識に苛まれつつも、結果的には人の卑しさをも目撃し、些細な金のトラブルにも遭遇する。

 最後まで寡黙な男を演じていたが、結末を見てなるほど!と思わせる脚本テクニック。平凡な日常を家族と過ごすことがどれだけ幸せなことなのか。冗談のような展開も彼の人生を大きく変えることとなるのだろう。「この道」の鐘の音。家に帰りたくなる旋律に安堵する作品でもありました。

kossy