劇場公開日 1993年12月25日

「大人にこそ響く、甘酸っぱい追憶」海がきこえる おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0大人にこそ響く、甘酸っぱい追憶

2025年7月18日
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鑑賞方法:映画館

幸せ

癒される

■作品情報
監督:望月智充。原作:氷室冴子。脚本:中村香。キャラクターデザイン・作画監督:近藤勝也。音楽:永田茂。主な声の出演:杜崎拓役 飛田展男、武藤里伽子役 坂本洋子、松野豊役 関俊彦。制作:スタジオジブリ。公開年:1993年5月5日(テレビ初放送)。

■あらすじ
東京の大学に進学した杜崎拓は、故郷・高知へ帰省する飛行機の中で、高校時代を思い出していた。それは、東京から転校してきた美少女、武藤里伽子との出会いから始まる物語。成績優秀でスポーツ万能、しかしどこか浮世離れした里伽子に、拓の親友である松野豊が惹かれる。一方、拓は強気な里伽子の言動に振り回され、反発を感じつつも、共に過ごす時間が増えていく。やがて、友人関係と恋心の狭間で揺れ動く若者たちの、甘くもほろ苦い青春が描かれる。

■感想
本作を観終えたとき、心に残るのは言葉にできないような懐かしさと、胸の奥がきゅっとなるような甘酸っぱい感情です。冒頭、現代のアニメ作品と比べると、当時の技術的な限界や、意図された「平熱感覚」の絵柄に、正直なところ少しだけ物足りなさを感じたのは否めません。しかし、物語が進むにつれて、そのシンプルな線と色使いが、かえって作品の世界観に見事に溶け込み、ノスタルジーを掻き立てることに気づかされます。

スクリーンに映し出される高知の街並み、ブラウン管テレビやレトロな生活家電、そして当時の流行を映す髪型や服装のすべてが、まるでタイムカプセルのように、あの頃の日本の日常を鮮やかに蘇らせます。それは単に当時を詳細に描いているだけでなく、失われた時間の温かさや、記憶のフィルターを通した輝きをまとっているようです。この時代だからこそ描けた、そして今だからこそ深く刺さる普遍的なテーマを確かに感じさせます。

杜崎拓の視点で描かれる青春のエピソードは、自分自身の学生時代には経験できなかったような、まぶしいほどに甘酸っぱいものです。拓の優しさや誠実さと、それに対し身勝手に見える里伽子の行動に時に苛立ちを感じつつも、互いに相手の存在が少しずつ大きくなり、それがやがて特別な感情へと変化していくのを感じます。あの頃の不器用さ、純粋さ、そして未熟さゆえの輝きが、丁寧にすくい取られているようです。友人との葛藤、親との関係、そして恋の駆け引き。すべてが発展途上の若者たちの姿は、時を経て大人になった今だからこそ、より深い共感を呼び、自身の成長と重ね合わせて懐かしさを感じさせます。そういう意味では、これは大人が「あの頃」を思い出し、新たな感情を味わうための作品だと言えそうです。

おじゃる
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