「原作に挑んだアニメーター達。原作小説も是非。」海がきこえる TSさんの映画レビュー(感想・評価)
原作に挑んだアニメーター達。原作小説も是非。
※本作は、ジブリの若手達が宮崎駿や高畑勲には作れないものを作ろうと企画を立上げ、鈴木敏夫のバックアップでドラマとして映像化した作品。しかし、映画のようにビスタサイズで作られている。だから、「アニメ映画」として観た感想を書きます。
他の作品のレビューで何度も書いているが、原作(小説や漫画)がある映画は、極力原作を読まないで観ることにしている。どうしても比較してしまうし、原作を上回る感動を得ることができない場合が多いからだ。
残念ながらこの作品は、原作小説を読んでしまっている。原作小説の完成度は非常に高い。
原作は、氷室冴子の小説とアニメーター近藤勝也の挿絵で1つの作品だと思っていたのだが、このアニメはその近藤勝也が作画監督。画の方は大丈夫だと思うけど、脚本、ストーリーは大丈夫なのか?という不安があった。70分という中途半端な尺も気になった。
ストーリーは、原作にかなり忠実に作られていた。尺の関係でカットされていたり改変されている場面はかなりあるけれど、原作の世界観がとても上手く表現されていた。
描かれる高知の街はとてもリアル(入念にロケハンした模様)。杜崎拓や武藤里伽子も動いて話すとこうなるのか、と。違和感なくすっと入ってきた。
たしか、制作陣が言っていたと思うが「この小説は出来上がっている」「何も大きなことが起こらない。難しい」と。確かに原作は出来上がりすぎくらい出来上がっている。だから、シンプルだけど、とても奥深く難しい原作にチャレンジした制作陣を素直に凄いと思った。
ストーリーと登場人物について書き出すと、もの凄い長文になってしまうので、ここでは書かないことにする。
個人的には、本作の原作小説と続編小説の2冊を通して読まないと、このお話を読んだ、ということにはならないと思っている。2冊読まないと、杜崎拓と武藤里伽子というキャラクターの本質を理解することはできないと思っている。
ただ、本作は、高校生から大学生へ、若者達が日常の中で色々なことを考え、少しずつ大人になっていくその瞬間を切り取った”どこかの誰かに当てはまりそうで当てはまらない”、しかし、なんとも懐かしく、むず痒い感覚を思い起こさせてくれる貴重な映像作品として、もっと評価されてもいいのではないかと思う。もう30年前の作品だが、普遍性があると思う。
2024年春、期間限定・上映館限定で上映され、秋にもまた上映されるという。観て良いと思った人は、是非、原作小説も読んでみて欲しい。単純な甘い青春小説、恋愛小説ではない。もっと色々な感情が沸き起こってくる作品なので。
もうすっかり中年の原作小説ファンより。