「原作に挑んだアニメーター達」海がきこえる TSさんの映画レビュー(感想・評価)
原作に挑んだアニメーター達
2025年7月、リバイバル全国上映で初めて映画館で観てきた(原作既読、DVD鑑賞済)。
30年以上前の作品だが、客層は老若男女幅広くという感じで席も7割方埋まっていた。マニアックな作品なので意外。
感想は?と聞かれたら、劇場で観て感動したとか、新しい発見があったとか、そういうことは無かった。ただ、単調なのに何故だかじわっと心に残る不思議な作品だということを再認識できた。それから、やはり画に魅力があるなと感じた。原作小説の世界を膨らませる効果絶大の挿絵がそのままアニメになっているので。
昨年書いたレビューでは、登場人物について一切触れなかった。
男性も、女性も、ヒロインの里伽子を好きと答える人は少ないと思う。非常にめんどくさい人だ。しかし、めんどくさいのに人を惹きつける人というのは実際いるもので、特に子供から大人になる不安定な時期、自分の学生時代を振り返ってみると、似たような人がいたような気がするなあ、と思い出す。拓や松野もしかり。この作品の魅力は、そういう「なんとなくわかる、この感じ」という印象を観客に抱かせるところにあるように思う。
そういう意味で、老若男女問わず観ることができる普遍性のある映画、つまり名作なのだろうと感じた。
※以下、2024/9/2投稿レビュー(一部カットして再掲)
他の作品のレビューで何度も書いているが、原作(小説や漫画)がある映画は、極力原作を読まないで観ることにしている。どうしても比較してしまうし、原作を上回る感動を得ることができない場合が多いからだ。
残念ながらこの作品は、原作小説を読んでしまっている。原作小説の完成度は非常に高い。
原作は、氷室冴子の小説とアニメーター近藤勝也の挿絵で1つの作品だと思っていたのだが、このアニメはその近藤勝也が作画監督。画の方は大丈夫だと思うけど、脚本、ストーリーは大丈夫なのか?という不安があった。70分という中途半端な尺も気になった。
ストーリーは、原作にかなり忠実に作られていた。尺の関係でカットされていたり改変されている場面はかなりあるけれど、原作の世界観がとても上手く表現されていた。
描かれる高知の街はとてもリアル(入念にロケハンした模様)。杜崎拓や武藤里伽子も動いて話すとこうなるのか、と。違和感なくすっと入ってきた。
たしか、制作陣が言っていたと思うが「この小説は出来上がっている」「何も大きなことが起こらない。難しい」と。確かに原作は出来上がりすぎくらい出来上がっている。だから、シンプルだけど、とても奥深く難しい原作にチャレンジした制作陣を素直に凄いと思った。
個人的には、本作の原作小説と続編小説の2冊を通して読まないと、このお話を読んだ、ということにはならないと思っている。2冊読まないと、杜崎拓と武藤里伽子というキャラクターの本質を理解することはできないと思っている。
ただ、本作は、高校生から大学生へ、若者達が日常の中で色々なことを考え、少しずつ大人になっていくその瞬間を切り取った”どこかの誰かに当てはまりそうで当てはまらない”、しかし、なんとも懐かしく、むず痒い感覚を思い起こさせてくれる貴重な映像作品として、もっと評価されてもいいのではないかと思う。もう30年前の作品だが、普遍性があると思う。
映画を観て良いと思った人は、是非、原作小説も読んでみて欲しい。単純な甘い青春小説、恋愛小説ではない。もっと色々な感情が沸き起こってくる作品なので。
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