「避けては行かれない道、人生は景色を楽しむ事なのか?」折り梅 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
避けては行かれない道、人生は景色を楽しむ事なのか?
観ていて、とてもショッキングな映画だった。決して他人事では済まされない思いを強く感じた。
今日の日本には高齢者が多数いて、その多くの方々が、今後年齢を重ねていく時に認知症を患わない保障などどこにも無い事。
そしてそれらのお年寄りの方々を支える筈の若年層の人々が少数である事のアンバランスが生む、色々な我が国のこれからの現実を思うと、不安になった。
これは、決して自分が介護しなくてはならない家族を抱える事になる自分の明日にショックを受けての事では無く、そう遠くない何時の日にか、自分が若い世代の人々の負担になる日が来る覚悟を付けて置かなくてはならない現実を見せ付けられた気がしたからだ。
自分では、いくら元気で、しっかりしているつもりでいても、そのつもりだけで、現実には老いてボケが出ている事にも自分で気が付かずにいる事も充分に有り得るのだ。
だからこそ、認知症なのだ。自分で自分の病状を深く理解出来、認識出来ている間は、それ程大した問題では無い、一応許容範囲内であると言えるだろう。
この映画では、初め認知症を患った政子も、不安から問題行動を色々と起こしてしまうのだが、その後、彼女は新しい趣味などを見つける事で、人に迷惑ばかりをかける余生では無く、家族と共に静かな時間をゆっくりと過ごす事が出来る様に変化した。
趣味に目覚め、趣味に集中する事を憶えた政子は、徐々に病状も安定していき、家族と共に幸せに満ちた安定した静かな生活を営む事が出来るようになる。
映画は、老いた老後の様子を、梅の老木に花が咲く事に準えて、認知症を発症したその後も、家族と良い関係性を続けていかれる可能性を秘めている事をこの作品は、みせてくれるのだが、それは素晴らしい希望で有り、誰もが、こうなってくれたら助かるだろうと言う希望の姿が描かれているだけの事だと考える。
確かに認知症が人生の絶望的な終わりを表す事では決して無いとそう言う点では、明るい老後の映画として希望の有る良い作品だとは思うので素晴らしいのだが、少し映画としては楽天的と言うか、甘く、浅い気がしなくもない。
本作は、希望も有り、良い作品で、好きだけれども、だからと言って、この映画の吉行和子が演じる政子の様に、もし自分が認知症になったその後にも、この作品の描いている主人公の様に、自分を取り戻して生きていく事が出来る、100%の保証は無いのだから。それを思うと、もっと若いうちから経済的な問題のみならず、どうしたら安心して生活出来る環境を自分自身が準備していく事が出来るのかと言う点にも、踏み込んで映画を描いて欲しかった。
絵画の才を発見する事で、遺された日々を穏やかな気持ちを保ったままで、生活をして行ける保障が万人に約束されている訳では無いのだから、若い世代の現実的な不安や、老後生活への備えをどう考え直すのかと言う点も描いて有ると最高だと思ったのだが?