「上質で普遍的で開拓者であるアニメ映画」バンパイアハンターD(2001) 映画読みさんの映画レビュー(感想・評価)
上質で普遍的で開拓者であるアニメ映画
2025年の今に「劇場未公開だった、日本語吹き替え版」で
映画館でバンパイアハンターDが観られた。
まさにここまで生きてよかった、ですね。
大画面で、当時乗りに乗っていた林原めぐみさん・ 山寺宏一さんの名演を味わえます。
2001年のときに私は中3で、本作をレンタルで見てとても感動しました。
当時の故郷は中学生以上がアニメを観るなんてありえないとされていて、深夜アニメで放送されていた「哲也-雀聖と呼ばれた男-」や「グラップラー刃牙(神イントロッ)」ですら、教室で話題として出せる空気ではありませんでした。今では考えられませんね。哲也も刃牙も漫画は教室内の男子ほとんどが読んでいたのですが、それでも「アニメなんて小学校低学年が見るもんだろ……」という空気です。ポケモンのアニメが始まったのが小4ぐらいで、当時みんな初代のポケモン赤緑にはドハマリしていましたが、「たとえポケモンでも、アニメなんて……」という空気です。小5や小6で。ガンダムもOVA作品には超ハイクオリティなものが数多くありましたが、「ガンダム」の4文字で幼稚なものとして避けられていました。これは、SDガンダムがコミックボンボン等で頑張った成果ゆえの反動とも言えるかもしれません。
エヴァはちょっと例外です。あれはその若者に対する威力ゆえに、アニメではなくエヴァとして見られていたというか。
とにかく、大人やその入り口に立った者たちは、アニメを褒めることが許さなかった時代がありました。
そんな中、突破口を開いたのはまず「カウボーイビバップ」、次にこの「バンパイアハンターD」だったと覚えています。
立場のある大人たちが「いや、アニメにも(大人が大人の感性のまま楽しめる)めちゃくちゃいい作品はあるよ」と、公然と言い切れる、人に勧めて納得してもらえる、その最たる作品がまずカウボーイビバップでした。特にプロの音楽活動をされる方々が、テレビや演奏会等で「実は、アニメの曲なのですが」と前置きして、カウボーイビバップの曲を披露してリードしてくれましたね。
ビバップだけは中学生以上が堂々と褒めていい確信的なアニメであり、ビバップで「え……普通にめっちゃかっこいいし面白いかもしれん……」とグラッと来た人に「じゃあこれもいいよ」と私が二の矢で勧めまくったのが本作、「バンパイアハンターD」でした。はっきり言って、必勝パターンでした。その次に、サクラ大戦ⅢのOPを見せるかどうかは相手によりましたが。
アンチオタク(当時は「マニヤ」という蔑称の方が多く使われていましたね。マニアではなく、マニヤという音です)のスポーツマンだったりヤンキーだったりも、意固地な逆張りマンは少なく、根っこには素直なものがありました。属性の重ならない人達も、超高品質な凄いと感じるものを浴びれば「凄え」と手のひらを返して褒めてくれる……その原理原則を確信させてくれたのが、ビバップと本作です。それは私に、高品質という「力」を目指すという希望を与えてくれました。本作は、私のその後の人生において、常に大きな支えになってくれた作品です。
思い出話ばかりしてもろくでもないので、本作について。
言わずもがな映像はとんでもない。
戦闘シーンは、目の超えた2025年に観ても最高レベルです。
緩急の付け方や脳が気持ちいいと感じる映像の流し方、その造詣の深さに唸らされます。
ストーリーやテーマも、2025年に観ても一切古くささがありません。
人やそれに類するものの普遍的な本質を描いているから、時代のふるいで落とされることがないのです。本作で一番成長したのは誰か、それを成長させたのは何か、そしてその結末は……と、全体を貫くテーマの観点から綺麗にまとまります。もうなんか、およそ全てのストーリーとはこれだけでいいのではないかと思わされる雑味の無さです。
演出については、現代作品なら単なるかませに描かれそうなマーカス兄弟たちがバリバリ強く、Dやマイエル=リンクがさらにその上を行く強さを見せるというアゲ方がいい。こういった演出の塩梅は、むしろ現代では失われてしまったかも。今やこの良さに触れていないクリエイターが多いのか、主人公の踏み台役となるキャラたちは強さや精神性、プロフェッショナル感のどれにもおいて嘲笑の対象として描かれがちなので。
欲を言えば、もう少しバリバリ戦闘シーンがあった方が、企画的には嬉しいところ。武人肌の狼男との戦いもフル尺で見たかったですね。もしかすると、「バトルそのものを楽しむ」というよりは「(西部劇的な、一瞬で決着がつく)決闘シーンを楽しむ」という解釈で戦闘シーンが作られたのかもしれないと思いました。つまり必殺対必殺で即決着、ゆえに進行というパッケージング。バトルシーンがバトルシーンとしてそのまま売り物になるという確信が、今ほど無かったのかもしれません。それでも、2001年当時では十分すぎましたが。
総評として、「2025年のレベルの相対評価」で星4.5とさせていただきます。
2001年の初公開時なら間違い無く星5であり、そして個人的としては私の人生を作ってくれた大恩から、2025年でも星5の作品です。
この、どこかしこでアニメの話題をしても後ろ指を指されなくなった時代、それを作った最も功績のある源流の1つです。ぜひ見て欲しい作品。
>林隆之さん
コメントありがとうございます。
なろう系は主人公も味方も敵も、三下悪役みたいなのが傾向として多いですね。そういう「天稟を得た者による、一方的な嘲りの快感」を効用とする作品は自分も楽しめません。
本作のマイエル=リンクのように、種としての天敵であり罪を犯した過去はあるものの、相手のことを思いやれる強い悪役……の作品が嬉しいですね。
当時英語版劇場で見たおじさんです。
この作品の前のOVA版も見てました。
絵柄がアニメ調(ダンクーガの作画スタッフ「いんどり小屋」作)なので不評もありましたがあっちも好き。
どちらもDと言う男のかっこ良さが描けていたし、主題歌も良いんですよね(TM NETWORKのOVA版共に)。
今時の取り敢えずアーティストに歌って貰っているだけのものじゃなくて作品の世界観をよく表している曲で。
原作のストーリーをだいぶ変えているけどアニメ嫌いで有名な原作者の太鼓判もらった良作。
強く、さりげなく優しく、そして哀しいDと言う主人公。
なろう系と言う強いけどゲスばかりの主人公やエヴァ以降の軟弱なことを肯定される主人公が幅をきかせる時代にだから復活すべき作品です。