「日本アニメ礎の誕生」わんぱく王子の大蛇退治 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
日本アニメ礎の誕生
1963年に製作された東映動画長編アニメ第6作目で同社の代表傑作で、日本アニメ史上に残る名作中の名作。
前々からとてもとても見たかった作品。
なかなか見れる機会が無かったのだが…、その通り! U-NEXTの配信で発見!
嬉しくて嬉しくて、早速見てしまった。
題材は、日本神話。
日本創造の神、イザナギとイザナミの子として産まれたスサノオ。
いっぱいの元気を持て余すように暮らしていたが、ある日母イザナミが黄泉の国へ去ってしまう。
母を追って、スサノオの冒険が始まる…。
日本神話と言うとエピソードやら固有名詞やら小難しい印象だが、全く以てその心配ナシ!
日本神話を題材にした日本のディズニーアニメとでも言うべきか。
良質邦画冒険ファンタジー・アニメ。
スサノオは日本神話では英雄となっているが、それをまだまだ未熟な少年にした事により、見る者にとって入り易くなっている。
お供のウサギのアカハナ、途中加わるタイタン坊(モデルはだいだらぼっち?)は本当にディズニーアニメみたいなユニークなサブキャラ。
兄ツクヨミの居る海の夜の国、姉アマテラスの居る天空の高天原。その幻想的な美しさ。
画のタッチは素朴。それが本作とこの日本神話の世界に合っている。
スサノオを始めキャラたちの動きは生き生きと。
怪魚や火の神との戦いはワクワクさせる。
監督の芹川有吾は元々アニメーション出身ではないらしく、枠に囚われない表現に。
原画に大塚康生、演出助手に高畑勲、後のアニメ名匠に受け継がれていったんだなぁ、と。さらに、宮崎駿に…と、想像を膨らませた。
冒険は出雲の国へ。荒廃した暗い国。
クシナダ姫と出会う。彼女もまた悲観に暮れていた。
生け贄にされるという。恐ろしい怪物に。
クライマックスを飾るは、余りにも有名なヤマタノオロチとの戦い。
このオロチの登場シーン~描かれ方、造形も、『日本誕生』や『ヤマトタケル』をずっと上回る。一応児童アニメーションなのに、ゾクゾクドキドキしてしまった。
スサノオは天馬アメノハヤコマに乗ってオロチと戦う。
このシーンの躍動感と来たら!
スサノオはアメノハヤコマに乗り、オロチの噛み付きをかわしながら、空を駆け、オロチを攻撃する。
オロチも八つの首を巧みにくねらせ、火を吹き、スサノオを追尾する。
そのクオリティー、素晴らしさは今尚全く色褪せてない。
…いや、これは語弊。今のアニメが負けているだけだ。
本当に手に汗握る。
そして、そのシーンを盛り上げるどころか、作品自体をより素晴らしくしているのが、伊福部昭の音楽。
実は前々から、本作の伊福部昭の音楽が素晴らしいとずっと聞いていた。
実際に聞いてみたら、数々の名曲/キャリアの中でもBEST級ではなかろうか。
所謂テーマ曲である“スサノオのテーマ”は童心や冒険心をワクワクくすぐる。
夜の国、高天原はさすが格調高く。
同じ日本神話を題材にした『日本誕生』でも音楽を担当。あちらでのアマテラスの岩戸隠れは力強い音楽だったが、こちらはリズミカル。これが非常に印象に残った。伊福部昭の音楽と言うと特撮作品や時代劇など重厚な音楽の印象だが、こういう音楽も奏でられるのか。しかも、同題材で。
そして勿論、オロチとの戦いのシーンはダイナミックで迫力たっぷりの音楽。
聞けば、音楽だけではなく、全体的な音の演出にも携わったという。
音楽が作品を語るとはまさにこの事。改めて、伊福部先生に脱帽。
クライマックスのスサノオ対オロチのシーンは、画、迫力、音楽が三位一体となったからこその高揚感。
これだけでも、越えられるアニメーションはあるか…?
そうそう無いだろう。間違いなく、日本アニメの名シーンだ。
膨大なエピソード、多くの登場人物、壮大な日本神話を1時間半に纏めたので、確かに展開は早い早い。
物足りないと見るか、見易くテンポ良いと見るか。
個人的には後者。
ファミリーで見るにもぴったりだし。
少年が冒険の中で人の為になり、時に迷惑を掛け…
失敗や成長など王道メッセージもしっかり描かれている。
それら経てからこその、守る為の戦い。
そして、その果てに巡り会えた幸せと平和。
日本誕生の物語。
英雄誕生の物語。
日本アニメーション礎の誕生。