わが恋は燃えぬのレビュー・感想・評価
全1件を表示
明治の自由民権運動に活躍する女性を描く力作も、溝口映画としては未消化
明治の自由民権運動の女性闘志が主人公の興味深い題材だが、同じ女性解放のテーマを持つ「女性の勝利」「女優須磨子の恋」同様、溝口映画としての輝きを得ていない。”人間を描く”ところまで、溝口の主人公に対する思い入れが感じられないのだ。弁護士や女優、そして政治活動家といった知的女性を描くこと自体、溝口監督の性質に反するのであろうか。
岡山の封建的な旧家に生まれ育った平山英子は、同じ思想を持つ自由党員早瀬龍三を慕っていた。彼の帰省を切っ掛けに、更に彼女の自由思想は強固なものになる。伏線として、平山家の小作人の娘千代が身売りされる当時の身分社会が描かれる。英子は上京して、早瀬の下宿先で生活する。ここで、藩閥専制と自由思想が対立する現実に直面するのだが、最も信頼していた早瀬が実は藩閥政治側のスパイであることを知り、彼女は愕然とする。情報が限られた時代では、諜報合戦が当たり前であったのだろう。それでも自由精神に熱心な英子に一目置いていた自由党の重鎮重井憲太郎に励まされ、闘いが続く。秩父の製糸工場で虐げられた女工と貧農を助けるため彼らが応援に駆け付ける。英子が工場を探ると、そこでは一人の女工(千代)が放火していた。この事件により、多くの自由党員が投獄される。この時代特有の政治的な出来事を扱った作品ではあるが、シークエンスの組み立ては単調で、ストーリーのための作為が目立つ。この牢獄では、英子を裏切った早瀬の面会を受ける屈辱がある。
しかしそれも、明治22年の大日本帝国憲法発布により激変する。と同時に、第一回総選挙に立候補するための自由民権運動が激しくなるところが紹介される。ここまで来ると歴史勉強が優先の作品だ。重井の国会議員当選の日、男性中心主義の彼と決別する英子は故郷に帰るが、前作「夜の女たち」と類似した男女関係、重井と千代の関係を知る英子の境遇が露になる。男の裏切りを経験して女性が変化するパターン化した展開とも言える。しかし、ラストシーンは、その英子の考え方に共鳴した千代が現れる変化球を持ってきた。だが、それでも安易な結末だと思う。
自由民権運動を扱った力作には違いない。しかし、溝口監督本来のリアリズム演出が生かされぬ題材であり、ストーリー展開であった。
1978年 7月12日 フィルムセンター
全1件を表示