夜の女たちのレビュー・感想・評価
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戦後すぐの混乱の中での悲惨な女性の運命 75年も昔の21世紀とは隔絶した物語? 果たしてそうでしょうか?
田中絹代のファンなら衝撃を受けるかと思います
冒頭こそ彼女らしい貞淑な主婦の姿で登場します
しかし中盤からは予想も想像もできない、観たくなかった娼婦の姿形、言葉遣い、物腰で登場します
彼女とは思えない程です
西鶴一代女の零落した姿形を演じた彼女よりも衝撃を受けました
1948年の大阪
復興は進みつつも、焼け跡も、人々の心にも戦後の混乱がまだまだ残されている光景が舞台です
彼女の演じる夜の女とはパンパンのことです
娼婦よりも街娼が正確な表現です
8年後に溝口監督が撮る赤線地帯の娼婦なぞ可愛いいもので、本作に比べれば綺麗な世界というべきです
これでもかとばかりに壮絶な女性の運命が描かれます
殊にパンパン狩りで収容された性病科の病院のシーンは圧巻です
パンパンの登場する映画は数あれど、これほどまでに現実の姿をリアリズムで撮った映画を観たことは有りません
もちろん生まれる以前の物語ですから、現実なぞ見たことも経験したこともないのですが、その映像は現実を切り取っているとハッキリ感じ取ることができます
ロッセリーニ監督のネオリアリズモと通底するものです
戦後すぐの混乱の中での悲惨な女性の運命
タイトルバックとエンディングにはベートーベンの運命をアレンジした音楽が使われています
75年も昔の21世紀とは隔絶した物語?
果たしてそうでしょうか?
ある有名お笑い芸人がラジオの自分の番組で軽口を叩いたことが物議を醸しているというニュースを昨日見ました
コロナ禍で職を失ったり、生活が苦しくなる人がでています
だから、しばらくすると綺麗な女性が風俗嬢に沢山なるからこれから楽しみだとかの心無い軽口をしたそうです
非難されて当然でしょう
これを発言した本人は冗談のつもりで軽く口から発したのでしょう
しかし彼にそうさせた精神は本作で溝口監督がテーマの中心に据えて見つめたものと言えます
溝口監督が戦前の祇園の姉妹や、そして戦後すぐの本作で描こうとしたことは、何十年も経っていても、21世紀においてもなお変わりはしないのだということを白日にさらしているのだと思います
そのお笑い芸人には、本作を観ることを心からお勧めしたいと思います
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