「わからないのよ」乱れる 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
わからないのよ
1964年。成瀬巳喜男監督。職人気質の成瀬監督が最晩年に撮ったメロドラマ。スーパーマーケットの勢いに押される小さな商店をめぐって、一人で店を切り盛りしてきた長男の嫁と、ぶらぶらしながら同居している次男。「嫁」という家族内での異質で微妙な立場、さらにそこへ次男に愛されてしまうという事件が起こる。高峰秀子の、百面相というほかない微妙な表情の変化がすごい。怪演。
ついに家を出る嫁とそれを追う次男が電車のなかで位置を変えていくことで気持ちの変化を表現する有名な場面や銀山温泉でのラストシーンはさすがというほかない。温泉に誘っておきながら次男を拒絶する嫁の、本当に正直な本音としての「わからないのよ」。
自宅兼店舗では、嫁だけが商店と続いた一階の居間奥に寝起きしており、義母や次男は二階で寝起きしている。二階への階段と一階の居間をつなぐ細い橋のような板。家族のなかの嫁の立場、商店との関係、さらに次男との微妙な愛情関係をこの板一枚で表現している。なんという素晴らしいセット。最後に高峰が駆け降りることになる温泉の階段さえセット。
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