劇場公開日 1987年2月27日

「こんな面白かったっけ?」マルサの女 ONIさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5こんな面白かったっけ?

2025年8月24日
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鑑賞方法:映画館

というかスタンダードだっけ?
しかしあまりに面白くて途中から涙が出てきた。その面白さの中に、当時の「日本」の持つ勢いみたいなものが確かにあって、出てくる顔の面白さと、伊丹十三もちょうど長編3本目で面白がって、というのか余裕もあって出来てるのか情報の詰め込み方も映画での遊び方も、そしてもちろん本多俊之の音楽も最高に決まってる。当時も思った通りこれだけ詰め込めてるのにラストの金の隠し場所の発見のところがもったいない。しかし当時はそこまで思ってなかった前田米造のスタンダードの絵と照明含めての遊び、とそれにピッタリハマる演者の揃え方が素晴らしい。あらゆるカットでの奥行きやカメラの動かし方や影や光の遊び。専門用語の応酬で興味なくなりそうなところを撮影のアイデアとキャラの面白さで上回っていくアイデア満載の演出っぶり。それが作り込み過ぎて当時は遊び過ぎな印象か強かったけど、今となってはレジェンダリーだなあ。。

逆に2が手抜きに見える。。
1年後なのであまり練られてなかったのか。舞台は宗教法人という当時も思った先見性。ところが前作ほど盛り上がらないがこれはわかる。伊丹映画の面白さは観客に伝えたい情報がメインでことさら誰かを描いているわけではない。だから宮本信子でなくてはいけなかった感もある。まあそれが面白いのだけど。前作は春夏秋冬に別けて、音楽を季節跨ぎでブチっと消し、すべてが感情なくグイグイ進む面白さ。だいたい半分くらいでマルサに入っていくという厚み。対権藤に税務署職員時代から始まってマルサで対決するというスパンもよかった。職場(組織)が変わって狙う相手もワンクラス上(J2からJ1へみたいな)になる面白さ。逆にその前半戦がないのでたっぷり時間を使うと割と凡庸なことになる。その凡庸さにあわせてか前田米造も普通になっているので時間がなかったのかな、と。以降の「〜の女」シリーズではエンタメとしてこの失敗をしないように別々新しい「〜の女」の情報の処理を行ってるような気がする。つまり登場人物たちをあまり深掘りするのが伊丹十三映画の美点でもないことは他でもない伊丹十三が一番よく知ってるということ。なのであまりどうしていいかわからない伊丹十三映画がみえる。そしていくつかヤバい要素が混在していて、三國連太郎も洞口依子の収まり方は相当変な娯楽映画の感じで面白い。

伊丹十三は同時期の和田誠と共にどちらも映画好きな、そしてセンスのとてもいい教養人で自分たちが観たかった映画、日本映画にない映画に持ち込み趣味の良さを日本映画に持ち込んだ。中でも伊丹十三は「昭和顔」の俳優をこれでもかというくらいにスタンダードサイズにギチギチに詰め込んだ。観た当時はどちらかというと情報と感覚だけで不器用な映画、というか長いCMを見ているようで「遊び」に見えてたのだけど、その遊びが本当に本当に素晴らしいな、と思った。

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ONI