「これも確かにアートだ」まひるのほし LaStradaさんの映画レビュー(感想・評価)
これも確かにアートだ
「何を考えているのか分からない」或いは「何も考えていない」と一般に思われがちな知的障害者とされる人々の内に潜むものを、絵画や焼き物という形で引き出す試みを続ける全国の作業所を巡るドキュメンタリーです。これ、大層刺激的な作品でした。
様々な例の中で僕がもっとも揺り動かされたのは、平塚の「工房絵(かい)」に通うシゲちゃんでした。こうした活動において普通用いられるのは絵画や粘土・焼き物などのいわゆる「美術」でしょう。それは、自分の内にある物を上手く言語化出来ない人々に新たな表現の道を付けようとする試みなのだと思います。しかし、シゲちゃんの場合はその新しい道とは「言葉」なのです。
シゲちゃんは、女性に興味があるらしく、様々な水着、例えば「スクール水着」「ビキニ」「ワンピース」などと言った言葉を独特の角張った文字でカードに書き続けます。或いは、様々な海水浴場の名前を同じようにカードに書き連ねるのです。なぜ水着でなぜ海水浴場なのかは誰にも分かりません。それは溢れる思いを絵にする人に「どうしてこの絵を描くの?」と聞く様なもので意味がないでしょう。ただ、そうしたカードを集めて一つにまとめると何だか大きな動きを持ったアートに見えて来ます。それが本作のポースターにある写真です。つまり、思いを上手く言葉に出来ぬ人から全く別の言葉を用いてそれを引き出す事も出来るという事なのです。こんな事、考えた事もありませんでした。
また、この日は、本作にも登場する「工房絵」の関根幹司さんがお見えになり、シゲちゃんが地域の人に受け入れられる様になるまでの過程を詳しく話して下さり、とても有意義な時間となりました。
更に、驚いた事。本作は障害者の映画と言う事もあり、聴覚障害者様に作品に日本語字幕が付いただけでなく、関根さんのトークにも同時字幕が付きました。関根さんが普通の速度で話す言葉を追いかけて即時的に字幕がスクリーンに映し出され、誤変換部分だけ係りの方が即座に訂正なさいます。書き起こしソフトなるものがかなり進化しているのは知っていましたが、今やここまで出来るのかと驚かされました。こうなると、外国語の同時通訳字幕が出来るのも時間の問題でしょう。凄い時代になって来たなぁ。