「最狂のキノコ料理をどうぞ」マタンゴ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
最狂のキノコ料理をどうぞ
東宝特撮1963年の作品。
お馴染みの怪獣モノやSFモノではなく、「美女と液体人間」「ガス人間第1号」などに代表される“変身人間”モノ。
その一連の作品の中でもズバ抜けた異色作であり、映画史に名高い怪奇カルトの傑作。
「トラフィック」「オーシャンズ11」のスティーヴン・ソダーバーグは、幼少時に見たトラウマからずっとキノコが食べられなかったそうな。
病院に収容されている一人の青年が、悪夢の体験を語り出す…。
若い男女7人でヨットで太平洋を航海中、嵐に遭い、流れ着いた無人島。
カビとキノコの異様な島で、人が居たような痕跡も。
難破船。
人が一人一人消えていった事を記した日記。
不気味なキノコの標本。
やがて食糧も尽き、7人はキノコを…
奇っ怪!恐怖!
キノコを食べ、人がキノコ人間と化す!
人間でも動物でもない、第三の生物、キノコ人間=マタンゴ。
その造型はB級モンスターチックだが、マタンゴと化している途中の姿はマジでおぞましい。
何処かの国の放射能実験の影響とされる問題のキノコ。
食すと、神経がイカれ、人間性を失い、サイケデリックな幻覚も見る。
まるでそれは、今芸能界に氾濫している“アレ”そのもの。
そして勿論言うまでもなく、何より恐ろしいのは、ドス黒い人間模様。
和やかで楽しい雰囲気から一転、漂流中はピリピリムード。
漂着してからはさらに渦を巻く。
島という限定空間。追い詰められた極限状態。襲い苦しめる飢餓。欲とエゴの剥き出し。…
マタンゴは、醜い人間の本性に他ならない。
作品によってドラマ部分が弱い東宝特撮だが、本作は秀逸。
薄気味悪く、陰湿で、アダルトな雰囲気も漂わせ、本多監督の演出もキャリアベスト級。
サポート的な円谷特撮も高クオリティー。
人間社会や道楽ボンボンたちへの皮肉・風刺もたっぷり。
東宝特撮常連たちが怪演・狂演を披露。中でも、水野久美の冷笑は妖しく戦慄!
ラストもまたショッキング。
バルタ…いや、マタンゴの不気味な笑い声が耳にこびりつく。
もう何度も見てるつもりだが、何度見ても強烈&クレイジー&キチ○イ!
半世紀以上も前にこれほどの作品を作った東宝特撮の力量にKOされる。