「家庭、仕事、恋」舞姫(1951) 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
家庭、仕事、恋
1951年。成瀬巳喜男監督。川端康成原作小説の映画化。旧家に生まれ、現在はバレエ教室を営む女性主人公には大学教授の夫、大学生の息子、バレエダンサーの娘がいる。また、公然の秘密として、長年親密に付き合っている男性がいる。元は家の書生だった夫は主人公に劣等感を抱いてぎくしゃくし続けているが、腐れ縁のように付き合っている男性には心を惹かれつつも肉体関係はない。家計が苦しくなっていく中で、こんがらがった関係を清算する日がくる、、、という話。
主人公をめぐる三つの線。生活を営む場である家庭をいかに存続させるか、夫や子供たちとの関係をどうするかという第一の線。今では教室を経営するだけだがかつては本気で打ち込んだバレエにどのように対応するかという第二の線。そして、結婚前から好きだった男とのプラトニックな関係をどうするかという第三の線。主人公はそれをひとつにまとめようとするができず、それぞれに複雑な事情が絡んでくる。例えば、家庭生活の線には、バレエ教室のマネージャーとして主人公を支える男が主人公への下心を抱えつつ、しきりにバレエダンサーとしての復帰(バレエの線)をそそのかしたりするし、バレエの線には、娘の先生でバレエに命をかけていたものの戦争で片足を失った男が登場して、「理念」としてのバレエが描かれる。からみあう線は複雑この上ないものの、わかりやすく分析されていて、構成がしっかりしている。
こうなったら終わり方はどうでもいいのだが、常に作品の終わり方に迷いとふんぎりの攻防(そのため時に思い切った結末になる。「乱れ髪」みたいな)がみられる成瀬監督の作品らしく、この作品の終わり方もすごい。きっと原作とは相当違うのだろう。
結婚後の女性の他の男性への揺れる思いを表す意味での「よろめき」という言葉の使用例としては早いのでは。三島由紀夫の「美徳のよろめき」は1957年。川端の原作小説に使用されているかどうかはわからないが。