「ようやく鑑賞する気になれました。」火垂るの墓(1988) 猿田猿太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ようやく鑑賞する気になれました。
今まで、この映画をみることを避けてきました。何故かというと、「感動ポルノ」というか、あからさまな「お涙頂戴映画」に感じて、見ると辛い気分にしかならないと思っていたからです。しかし、某氏の解説を聞き、それを確かめるために評論家気分で俯瞰視点から見るように努めれば、それほど辛い気持ちにならずに済むのではないか。そう思い立ち、ようやく見ることを決心しました。
で、見終わった後の感想ですが、やはり、見ていて辛い映画でしかなかったです。やはり、二人が気の毒ですね。子供ながらの愚かしさ、意地っ張りは判るし、それを上手く導いてあげられる大人の存在が無いのは非常に悲しむべき事だった。でも、そんな人の存在は希であり、そんな人との出逢いは奇跡であり、自分のことで精一杯だった当時の人々の事情を思えば、「悲しいけど、仕方ない」というのがギリギリ精一杯な理解です。
ただ、どうして清太にもっともっと生きるために卑屈に頭を下げさせなかったのか。もう少し上手く生きることを選択させることが出来なかったのかと思う。軍人の気の強い息子だからと、その設定を加えた時点で、そんな選択肢をつぶされてしまった様にも見えるけど。そして、そんな卑屈な生き方をさせると主人公達は惨めで醜くなってしまう。ならば美しいまま死なせてはどうか。美しいまま永遠に神戸の街を見おろす亡霊にしてしまってはどうか、というこの映画の趣向が良いところでもあり、この映画の悪徳、タチの悪いところでもあったと思う。そんな「悪いところ」があるからこそ、「感動ポルノ」ではない、渋みのある映画として鑑賞できたのだと、私は感じました。
だから、ちょっと満点を付けるのは厳しいけど、非常に良い映画だったと思います。最初にお話しした某氏の解説の中に「禁じられた遊び」という映画のことも触れられていましたが、確かにその映画と共通する点も多く、影響されて「高畑勲版」を作ったのではないかとも感じられ、十分にそれと居並ぶ名作であると思います。