劇場公開日 1976年8月28日

「果てしなき商戦は不毛の地のように虚しく」不毛地帯 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5果てしなき商戦は不毛の地のように虚しく

2020年2月7日
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鑑賞方法:DVD/BD

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『華麗なる一族』に続き、山本薩夫監督が山崎豊子の小説を映画化した1976年の作品。主演も仲代達矢。
こちらも後年、唐沢寿明主演でTVドラマ化された。

元大本営参謀であった壹岐はシベリア抑留11年を経て帰国後、総合商社の近畿商事から誘いを受ける。
軍人時代の手腕を買われての事だったが、近畿商事が扱うのは…

空自への戦闘機選定。
より優れた戦闘機を巡り、各商社、自衛隊、財政界が繰り広げる策略、癒着、暗部…。
日本は戦争を永久放棄したのではなかったのか…?
何の為の戦闘機選定なのか? 防衛? それとも…?
壹岐自身も戦争や決して誰にも語らぬシベリア抑留を身を持って経験した。
が、一軍人として、商社マンとして、今度は熾烈な“商戦”にのめり込んでいく。
周りに敵を作り、対立し、時には家族と衝突しながら。
人のエゴや欲渦巻く絵図ながら、それはまるで不毛の地のように虚しく…。
そんな“不毛地帯”の果てに、壹岐が辿り見たもの、失ったもの…。

共演に丹波哲郎、田宮二郎、山形勲、八千草薫らこちらもそうそうたる面子。
アメリカロケも行い、山本監督のダイナミックな演出は言うまでもなく、スケールも見応えも充分の山本×山崎社会派エンタメ大作。

…しかし、
作品の面白さも充分だが、本作は色々物議を呼んだ“問題点”こそ話題かも。
製作中にかのロッキード事件が起こり、特定のモデルは無いにせよ、その類似点が大いに問題に。
原作では壹岐のシベリア抑留エピソードが多く描かれているらしいが、映画ではかなり省略され、山本監督の意向で戦闘機選定の商戦メインに。
これにクレームを付けたのが、原作者の山崎。
作品の見解の違いを巡って、山本と山崎は初めて対立。
そのせいか、山本が山崎の作品を手掛けるのはこれが最後となった。
製作中まだ原作は連載中で、映画化は前半のみ。
その為、ある人物の死をクライマックスに持ってきて、一見劇的に纏まっているように見えて、少々途中な印象も。

後半部分の映画化企画も上がったらしいが…、実現しなかった事が残念。
後半部分は自動車や石油産業への介入、近畿商事を勇退した壹岐が選んだ第3の人生が描かれているそうで、こちらも是非見たかった。

近大